斎藤満(エコノミスト)

 11月19日夕刻のニュース速報で「日産自動車のゴーン会長逮捕」が流れると、世界に激震が走りました。欧州市場ではルノーの株価が10%以上も急落し、フランスのマクロン大統領も「事態の成り行きを注視する」と述べました。

 そして20日の東京市場でも日産自動車、三菱自動車の株価が一時6%以上も下がるなど、カルロス・ゴーン氏が経営にかかわる企業の株は大きく売られました。

 しかし、何か不自然なものも感じます。逮捕後に会見した日産自動車の西川(さいかわ)広人社長によると、内部告発を機に数カ月前から内部調査をした結果、ゴーン氏が経営トップにあった時期に「複数の重大な不正行為があった」と言います。逮捕容疑によれば、ゴーン氏は2015年3月期までの5年間に、実際は100億円近い報酬があったのに、有価証券報告書には50億円も過少に報告していたそうです。

 さらに、会社の金を私的な投資や消費に使っていたとも指摘されています。これらの疑いについて、東京地検特捜部も捜査をしており、日産自動車は近くゴーン氏に会長職の解任を求める予定だそうです。

 5年間で50億円も報酬を過少に報告していた上に、実際には公表額の倍に当たる年20億円もの報酬を受け取り、さらにフランスのルノーからも約9億円、最近では三菱自動車からも2億円以上もらっていたと言います。クビを切られた日産社員から見れば、許し難い行為だったのかもしれません。

 確かに米国では年10億円以上の報酬を得ている経営トップはいくらでもいます。しかし、日本の企業社会においては、いくら業績を上げた経営トップといえども、10億、20億の報酬を得ることには批判がつきもので、まして「コスト・カッター」として多くの犠牲を社員に求めた経営トップともなれば、反発も多いと思います。事実、フランスでもゴーン氏の高額報酬についてルノーの株主が反発しています。
記者会見に臨む日産自動車のカルロス・ゴーン社長(当時)=2016年10月20日、東京都港区(福島範和撮影)
記者会見に臨む日産自動車のカルロス・ゴーン社長(当時)=2016年10月20日、東京都港区(福島範和撮影)
 しかし、ゴーン氏が経営に参画する前は、1兆4千億円の債務を抱えて経営が行き詰まっていた日産を、厳しいコスト削減の中で瞬く間に債務をゼロにし、業績をV字回復させた手腕は高く評価されています。そのため、多少の「不正」にも捜査当局は目をつぶってきた経緯があります。

 それだけに今回、報酬の過少申告や資金の私的流用を「重大な不正行為」として、東京地検が動いたというのは、従来の慣行からするとやや違和感を感じます。これで懲役10年、ということになれば、同業者や経営トップの中には居心地の悪い思いをしている人も少なくないのではないかと思います。では、なぜ今東京地検が動いたのでしょうか。