一つの推測にすぎませんが、米国の意向が何らかのメッセージを伝えようとしていた可能性があります。東京地検特捜部は、その生い立ちから、米国当局と深いつながりがあり、しばしば米国の事情が捜査に反映されることがあるからです。

 東京地検特捜部は、米軍占領下の1947年に旧日本軍が退蔵していた物資を摘発し、GHQの管理下に置くために設置された組織がもともとの姿であり、以来米国との連携が密と言われています。今回の事件についても、ゴーン氏がその米国を刺激するようなことをしてしまった可能性が指摘されています。

 例えば、今日のトランプ政権にとって、日本の対米黒字が許容できないほど大きく、その主犯が自動車産業にあるとみています。このため、米国は日本に対して、対米自動車輸出を大幅に削減し、米国での現地生産にシフトするよう求めています。自民党の阿達雅志参議院議員によれば、日本側に最大100万台の削減を求めているらしく、昨年1年間の対米自動車輸出は174万台でしたから、これはとんでもなく大きな数字であり、自動車業界の経営を揺るがしかねない事態です。

 このため、日本の自動車業界としても簡単に応諾できるものではなく、日産もこの米国案には抵抗していたと言います。そう考えれば、ゴーン氏の逮捕は、いわば「見せしめ」的な何らかの意図が働き、他の自動車業界に対米輸出の自主規制を促す、との見方もできなくはありません。

 また、日産は経営危機に陥った三菱自動車を傘下に収めましたが、三菱自はかつて軍事部門を持つ三菱重工業の一部門でした。日産がゴーン会長の下で軍事部門を支配するようになれば、米国の軍事産業が警戒を強める可能性も指摘されていました。真相は分かりませんが、今回の特捜部の動きは「米国との連携プレー」という側面も否定できません。

 こうした経緯で考えると、今後の日本経済、産業界には少なからぬ影響が予想されます。まず日本経済については、自動車業界の対米輸出の大幅削減が、そのまま需要の減少、成長の押し下げとなります。自動車業界だけで対米黒字を4兆円以上生み出していますが、仮にこれをゼロにすると、関連企業、下請け企業の需要減も含めて、日本のGDP(国内総生産)を1%以上減らす可能性があります。

 消費税増税と自動車の対米輸出大幅減が重なると、現在検討されている補正予算による景気対策を講じてもカバーできなくなります。かといって、10兆円超の大型景気対策を打ち出しても、人手不足で実施が困難な上、財政赤字の拡大、長期金利の上昇という副作用をもたらします。

 仮にこれで日本全体のGDPは落ち込みを回避できたとしても、兆円単位の輸出減に直面する自動車業界の救済にはつながりません。米国での現地生産拡大で穴埋めできる分は限られています。米国でも人手不足が進行しているからです。
トランプ米大統領=11月6日(ロイター)
トランプ米大統領=11月6日(ロイター)
 さらに、日産自動車は「重大な不正行為」を働いたとはいえ、一度は経営危機に陥った同社を見事に再建し、業績をV字回復させたゴーン氏の「手腕」を失うことになります。これに代わるカリスマ経営者がすぐに現れる保証はなく、輸出の大幅削減の下で世界2位の巨大自動車グループが迷走するリスクがあります。

 今回のゴーン会長逮捕は、単なる個人の不正に対する処分では済まない大きな波紋を日本経済に広げることになります。日本経済や金融市場への打撃はもちろん、長年わが国の産業界でリード役を果たしてきた自動車業界全体にとっても、対米輸出の規制を通じた大きな試練に直面し、経営の基盤を揺るがす事態ともなりかねません。これは自動車をはじめとする産業界に支えられる安倍政権にとっても、大きな試練となります。