日沖健(経営コンサルタント)


 日産自動車のカルロス・ゴーン会長(以下、ゴーン容疑者)の逮捕が波紋を広げている。本稿では、今回の事件の背景や動機、われわれに与える示唆、今後の懸念事項について考えてみたい(なお、以下は誤認逮捕ではないという前提で書いている)。

 まず、背景については、11月19日夜の記者会見でも問題になったように、西川(さいかわ)広人社長ら日産の日本人経営層が、ルノーと同社の株を保有するフランス政府から経営の主導権を取り戻そうというクーデターの側面がありそうだ。が、これはあくまで憶測であり、現時点で実情は分からない。ゴーン容疑者の退任後、傘下の三菱自動車を含めてどういう体制になるか、今後の展開が注目される。

 一方、ゴーン容疑者本人が不正を働いた動機は、かなり単純かつ明白だ。役員報酬の開示制度が始まった2009年度にゴーン容疑者が日産から受け取った報酬は、8億9100万円で上場企業トップだった。その後も毎年10億円前後の報酬を受け取り、2016年度まで8年連続でトップ10に名を連ねた。

 年10億円というと、庶民にとっては天文学的な数字だ。日本では高額報酬への反発が強く、一流企業の経営者でも報酬は1億円をようやく超える程度である。ルノー株を保有するフランス政府も、マクロン大統領自らゴーン容疑者の高額報酬を批判したことがある。

 しかし、国際的にはゴーン容疑者の報酬は、それほど高額ではない。というより「安すぎる」と言える。

 アメリカ大手企業の最高経営責任者(CEO)は、基本給だけで10億円以上、業績連動のインセンティブを含めると20億円以上になるのが一般的だ。100億円を超えるケースもたびたびある。倒産の危機にあった日産を救い、自動車業界で世界2位の巨大グループを築いたゴーン容疑者が「俺の報酬は安すぎる」と考えたことは間違いない。

 ネットでは「あんなに儲けてさらに不正を働くって、ちょっと理解できない」という声が多い。しかし、実態は逆で、国際比較や日産での実績から、本人の意識としては、自分自身への「正当な評価」、あるいは一流経営者として「当然の権利」として、ほとんど罪の意識もなく不正を働いていたのだろう。もちろん、「悪気がなかったから許される」という話ではないので誤解なきよう。
日産自動車のカルロス・ゴーン社長(左・当時)=2016年10月20日、東京都港区(福島範和撮影)
日産自動車のカルロス・ゴーン社長(左・当時)=2016年10月20日、東京都港区(福島範和撮影)
 次に、事件がわれわれに与えてくれた示唆だが、今回の事件で改めてはっきりしたのは、監査法人や社外取締役は不正の防止、発見にまったく無力だということだろう。

 日産の会計監査は、EY新日本有限責任監査法人(以下、新日本)が担当している。新日本は、これだけの巨額の不正が長年に渡って続いていながら、見抜くことができなかった。もしくは見逃してきた。新日本は、オリンパスや東芝、スルガ銀行といった近年の不祥事企業で会計監査を担当していたことから、「新日本は不正企業の御用達か」といった批判も噴出している。