高橋洋一(嘉悦大学教授)

 日産自動車のカルロス・ゴーン会長が有価証券報告書に報酬額を過少申告していたとして逮捕された。報道によれば、容疑は有価証券報告書への虚偽記載であり、これは金融商品取引法違反になる。その背後に、社内通報制度を契機に不正が発覚し、検察当局に報告し全面的に協力した上で、内部調査も実施したという事情もあるようだ。

 内部通報に関わる制度としては、公益通報者保護法もある。公益通報者保護法による公益通報制度、いわゆる内部告発がある。ここで、公益通報の対象となる「通報対象事実」とは、同法に列挙されている法規制の犯罪行為の事実などを指す。この列挙されている法律の中には、今回の金融商品取引法も含まれているので、通報した労働者も不利益を被(こうむ)ることはない。

 ただし、2004年に施行されたこの公益通報制度は、内部告発した会社による公益通報者への報復人事を禁止しているものの、その実効性はないと言われている。もっとも、今回の場合、日産がゴーン氏を追い出すわけなので、これを通報した内部者に対して日産が不当な人事を行わないと思うので、その点は心配ない。

 法人としての日産は検察にも報告し、その上で同社関係者が司法取引にも応じている。このため、有価証券報告書の虚偽記載については、法人としての違法行為も問われかねないが、司法取引によって刑事処分を免れ、起訴されない可能性もある。

 そもそも、役員報酬の実態はどうなのか。今や、役員報酬の開示制度があるので、賞与やストック・オプション(自社株購入権)などの報酬総額が「1億円以上」の役員について、報酬額は有価証券報告書で個別に開示されている。民主党政権下の2010年3月期決算から義務付けられた制度であるが、民主党らしい政策であると思い、筆者は一定の評価をしている。

 この開示制度のために、会社の交際費や将来の役員年金などの「フリンジ・ベネフィット(付加給付)」を縮小する動きになっている。海外の投資家などから「報酬ではないか」と指摘された場合、反論できないので、役員報酬に切り替えているのだ。

 また、マスコミでも、毎年のように役員報酬ランキングが作られている。かつては、日本の役員報酬が低いといわれていたが、この開示制度により対外的に説明できればいいとの考え方が広がり、日本人の役員報酬も高額な人がそれなりに増えた。

 その上位ランクの常連が、今回逮捕されたゴーン氏だった。今年のランキングで上位を見ると、1位がソニーの平井一夫会長で27・1億円だったが、10億円以上の10人のうち7人は外国人役員だ。ゴーン氏は18位にランクされ、7・35億円となっている。
2018年10月19日、厳しい表情で記者の質問を聞く日産自動車の西川広人社長
2018年10月19日、厳しい表情で記者の質問を聞く日産自動車の西川広人社長
 確かに、日産の2018年3月期の有価証券報告書を見ると、同社で1億円以上の役員報酬を受けているのは、ゴーン氏の7・35億円と、西川(さいかわ)広人社長の4・99億円の2人だけだ。なお、日産の役員は、9人の取締役と4人の監査役である。9人の取締役のうち、今回逮捕されたゴーン氏と、ゴーン氏の不正に関与したとして逮捕された代表取締役のグレゴリー・ケリー氏のほか2人の計4人が外国人、残り5名が日本人である。

 役員区分ごとの総報酬は、取締役に対して金銭報酬16・54億円、株価連動型インセンティブ受領(じゅりょう)権0・9億円、監査役1・01億円、社外役員1・02億円と記載されている。