加谷珪一(経済評論家)

 日産自動車のカルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕されるという衝撃的な事件が発生した。ゴーン氏は経営危機に陥った日産をV字回復させた名経営者として自動車業界に君臨してきた。日本ではゴーン氏はグローバル・スタンダードの象徴と見なされており、高額の役員報酬を正当化する根拠にもなっていた。

 ゴーン氏が有能な経営者であったことは誰もが認めるところだが、多くの日本人がイメージするようなグローバル経営者とはちょっと違う。ゴーン氏とはいったい何者だったのか、そして私たちはこの事件についてどう受け止めるべきなのか考察した。

 日産は1999年に経営危機に陥り、仏ルノーに救済された。日産の経営を立て直すために派遣されたのが、当時同社の副社長だったゴーン氏である。

 ゴーン氏は日産の最高執行責任者(COO)を経て2000年6月に最高経営責任者(CEO)に就任。徹底的なコストカットを実施するなどトップダウン経営を強力に推進し、日産はV字復活を果たした。その後、ゴーン氏は日産の会長だけでなくルノーの会長も兼務するようになり、ルノー・日産・三菱グループを率いる大物経営者として自動車業界に君臨してきた。

 日産のV字回復はコストカットによるところが大きいが、「新型フェアレディZ」や「GT-R」といった、魅力的なクルマ作りに惜しみなく費用を投じるなど、日産のイメージを劇的に回復させた実績もある。事件の是非はともかくとして、ゴーン氏が有能な経営者であったことは間違いないだろう。
日産の高級スポーツカーGTーRの特別仕様車をアピールする、カルロス・ゴーン氏=2013年11月、神奈川県横浜市(田辺裕晶撮影)
日産の高級スポーツカーGTーRの特別仕様車をアピールする、カルロス・ゴーン氏=2013年11月、神奈川県横浜市(田辺裕晶撮影)
 一方、冒頭でも記したが、日本国内でゴーン氏はいわゆるグローバル・スタンダードの象徴と見なされてきた。ゴーン氏は日本の平均的な企業経営者とは比較にならない水準の高額報酬を受け取っていたが、上場企業の経営者の報酬は高額で当然、という話の引き合いに出されるのは決まってゴーン氏であった。

 ゴーン氏の影響なのかは不明だが、その後日本の経営者の役員報酬はうなぎ上りになっており、現在では業績が芳しくない企業であっても億単位の報酬をもらう役員が続出している。

 筆者は、国籍にかかわらず有能な人物を高額で雇うことについて、基本的に賛成する立場である。だが、ゴーン氏が高額報酬の妥当性を担保できるグローバル・スタンダードな経営者なのかという点については疑問の余地があると考えている。

 情緒や感情ばかりが優先する日本社会では、グローバル企業という言葉の定義すらはっきりしておらず、外資であればグローバルといった単純な理解にとどまる人も多い。

 本当の意味でのグローバル企業というのは、明確な国籍がなく、拠点も人材も多国籍になっている企業のことを指す。具体的にはネスレやABBグループ、ユニリーバといった企業である。

 米国の著名企業の中にはグローバルに事業を展開しているところも多いが、マイクロソフトもインテルもれっきとした米国企業である。自動車メーカーになると国を代表する企業という側面が強くなり、自動車大手のGM(ゼネラル・モーターズ)はまさに米国を象徴する企業といってよい。

 その文脈で考えれば、フランス政府が筆頭株主となっているルノーは、グローバル企業ではなく、れっきとしたフランス企業ということになる。フランスはもともと革命国家であり、ミッテラン政権時代には企業の国有化を強力に推し進めるなど、社会主義的・官僚主義的な風潮が極めて強い。ゴーン氏自身もレバノン系ではあるが、フランスの官吏養成機関である「グランゼコール」を卒業した典型的なフランスのエリートである。