米国企業や多国籍企業の役員報酬が極めて高額なことはよく知られているが、著名企業の多くが国営となっているフランスは事情が異なる。企業トップにはグランゼコールの卒業生が就くケースが多く、米国企業やグローバル企業のような超高額報酬は許容されていない。

 ゴーン氏は、日産のトップに就任して以降、常に10億円近くの報酬を受け取ってきた(逮捕容疑によると実際はもっと多かったわけだが…)。ゴーン氏は親会社であるルノーのトップも兼任しているが、ゴーン氏はルノーからはそれほど多くの役員報酬をもらっていない。

 最近でこそ、ルノーからの報酬も引き上げているが、フランス政府はゴーン氏の報酬引き上げに反対してきた。ゴーン氏はこうした事情から、報酬の多くをアジアの現地子会社である日産から受け取ってきたというのが現実なのである。

 一連の状況を総合的に考えると、ゴーン氏はいわゆるグローバル・スタンダードの経営者ではなく、典型的なフランス企業の経営者であり、買収したアジアの現地子会社から多額の報酬を受け取っていたに過ぎないということになる。

 今回、ゴーン氏にかけられた容疑は有価証券報告書の虚偽記載である。投資家にウソの報告をすることは許されることではないが、自らの報酬額を少なく説明していたことが投資家にどれほどの損失を与えるのかというと、現実には大した話ではない。

 逮捕容疑について脱税と勘違いしている人が多いが、今のところゴーン氏に脱税の容疑はかかっていない。そもそもゴーン氏は源泉徴収の対象である可能性が高く、もしそうだとすると理論的には脱税のしようがないのだ。

 日本では、悪質度合いでは比較にならない「不正会計」が横行しているにもかかわらず、まったく罪に問われない経営者がたくさんいるという現状を考えると、現時点で得られる情報の範囲ではゴーン氏の容疑は「微罪」ということになる。余罪があるのか、場合によっては今回の逮捕に何らかの思惑が存在しているようにも思える。

 真相はまだ分からないが、冷徹なリストラを行い、多額の報酬を受け取っていたカリスマ外国人経営者が逮捕されたことで留飲(りゅういん)を下げた人も多いかもしれない。だが、そのような感覚のままでは、再び同じことの繰り返しとなるだろう。

 そもそも日産がルノーに買収されたのは、日産を救済する覚悟を持った企業や投資家が日本にいなかったからである。日産が経営危機に陥った際、日本国内のリスクマネーが日産を救済していれば、こうした事態には至らなかったはずだ。三菱自動車を救ったのも、結局はルノーだったという現実を忘れてはならない。
日産自動車の社長と三菱自動車の会長を兼務することが決まり、会見に臨んだカルロス・ゴーン氏(当時)=2016年10月、東京都港区(福島範和撮影)
日産自動車の社長と三菱自動車の会長を兼務することが決まり、会見に臨んだカルロス・ゴーン氏(当時)=2016年10月、東京都港区(福島範和撮影)
 最近ではシャープという事例もある。日本国内では中国資本に対する批判が根強いが、結局シャープを救ったのはチャイナ・マネーであるというのは厳然たる事実だ。鴻海は台湾の企業だが、創業者のテリー・ゴー氏は外省人(中国から台湾に渡った人々と子孫)であり、中国本土で成長した企業なので限りなく中国資本に近い。鴻海は台湾企業であるとして納得するのはナンセンスである。

 競争を忌避(きひ)し、自らに甘く、いざという時にリスクを取れない国民は、資本市場において確実に諸外国の餌食(えじき)となる。ゴーン氏の活躍と失墜は、日本人自身に問いかけられた課題と認識すべきだろう。