山岸純(弁護士)

 日産自動車の代表取締役会長、カルロス・ゴーン容疑者が金融商品取引法違反容疑で11月19日に逮捕されました。有価証券報告書に役員報酬を過少記載した疑いが持たれています。

 本件は内部通報と司法取引によって明らかになったと報道されています。一般的には「内部通報」と言われていますが、正式には「公益通報」なんです。この公益通報制度は簡単に言うと、会社の中の不正行為を現場の従業員が、役員や社長など上層部に対して通報するという、あくまで社内的な制度のことです。

 そして公益通報をしたことによって左遷や解雇をしてはいけないというのが、公益通報者保護法によって定められています。

 私自身がいくつかの企業から公益通報窓口の依頼を受けているように、公益通報の窓口は外部に設けることが多いですね。内部に通報窓口を設けた場合に、情報が内部に漏れるリスクがあるためです。

 それ以上に今回私が注目したいのが、司法取引についてです。アメリカなどではよく行われていますが、国内では2018年6月1日に施行され、三菱日立パワーシステムズ社員の贈賄事件に続き、本件が適用2例目となりました。 

 今回、捜査機関に対して司法取引に応じた人物も、逮捕される対象だった人物である可能性があります。司法取引に応じ、情報提供をした人物は、逮捕・起訴されず罪を免除されることがありえますからね。

 殺人事件や窃盗などと異なり、会社内部の事件は捜査が大変困難です。莫大(ばくだい)な量の資料やメール、データがあり、それを一つ一つ洗う必要がありますし、内部の話はなかなか分かりづらい。捜査がしにくい状況において、内部からのリーク、もしくは協力によって捜査が進むなら、その分恩恵を与えましょう、というのが司法取引です。「大物」を逮捕するために「小物」から情報を聞き出す、という場合もありますね。

 国内での司法取引は、適用される法律によって始まった時期が異なります。例えば独占禁止法に対しては、2006年に施行された「リーニエンシー」という制度があります。談合、価格協定をしていたことを自主的に公正取引委員会に申告した場合、課徴金が減免される制度です。

 なぜ、最近になって日本で司法取引の制度が施行されたかと言えば、グローバル化が進んでいったからでしょう。これまで日本の国民性を考えると、告げ口をするような司法取引という制度はなじまないのでは、という認識がありましたが、このままでは世界の潮流に置いていかれるという危機感から制定され、今回見事に活用されたわけですね。
東京地裁=東京都千代田区霞が関
東京地裁=東京都千代田区霞が関
 今回の事件は、数年前から内偵が始まっていたと考えられます。ここ数カ月の話ではないでしょう。なぜなら、先に述べた通り会社内部の捜査は非常に困難だからです。この手の企業犯罪、ホワイトカラー犯罪は、普通の犯罪とは違う特殊性があります。すべての証拠をそろえ、最後の最後に逮捕するわけです。

 逃げられたり感づかれたりしたら最後、いくらでも証拠隠滅ができてしまいますから、慎重に内偵を繰り返し、多くの内部協力者と共に捜査をしていたのでしょう。今回のことが事実であれば地検特捜部の大金星ですね。