木村 私が気になっている前提条件は、沖縄に米軍基地が集中していることです。安全を享受しながら、基地を身近に感じなくていいという状況は、本土の人にとってすごく快適な環境なのだと思います。そんな快適さのなかでは、本土の人は安全保障政策を変えようとは思わないでしょう。もしも全国の小学校で、米軍機が飛ぶたびに騒音で授業が中断するような状況になったら、日米安保を考え直す議論が出るのかもしれません。

橋下 そうですね。対談でも話したけど、沖縄の問題は手続法を考えるしかない(第3章参照)。手続法を作ろうとすると、今は他人事だけど沖縄県以外の国会議員や自治体も、基地が設置される地域の住民の声をどこまで聞くべきかについて必死になって考えるようになると思う。住民の声を重視すれば沖縄の基地は否定されることにつながり、住民の声を軽視すれば、米軍基地が沖縄から自分の地域に移転されることにもつながるんだから。

木村 「日米関係が……」「核の脅威が……」と実態論だけを主張し合ったところで、価値観は十人十色だから、話のまとまりようがない。その点、橋下さんは手続き論をとても重視していて、ガバナンスの現場にいた人だと感じました。

橋下 知事と市長をやってわかったのは、何が正しいのかは人間ごときにわからないということです。役所で出世してきた優秀なメンバーが議論してもわからない問題が、トップである首長に集まってきます。正しいものがわからないからこそ、仮に正しくない結論になったとしても、みんなに納得してもらうような手続きを政治家は踏むべきなんです。

木村 今回の対談で手続法の大切さを再確認しましたね。

橋下 僕が木村さんと話していて面白かったのは、権力=悪と感情的に考えていなかったこと(第2章参照)。権力がない、無秩序こそ悪だという発想がベースになっていた。もちろん権力に対して厳しく指摘はするけれども、権力がなくなることがいいとは思っていない。ここは、僕が政治家として権力を考えるベースとまったく同じです。インテリの人た
ちは、とにかく権力=悪から始まりますからね。

木村 単に権力反対というのは、何も考えていないのと一緒です。自衛隊違憲論にもいろいろあって、本当に〝さわやか〞な議論がありますからね。「とにかく、絶対に違憲!」というだけで、日米安保も自衛隊もなくなったときに何が起こるのかについては考えない。

橋下 現実の悩みが、そこに存在しない。やはり僕は弁護士としても政治家としても実務をやってきたから、現実に悩まない人とは議論が進まない。理想にだけ生きる人は現実が見えなくなっている。一方で現実ばかりだと、現実はこうだから仕方ないとあきらめるばかりです。理想論と現実論とを行ったり来たりしないといけない。

木村 橋下さんは現実論を話しつつも、憲法改正案に教育無償化を盛り込むなど(第6章参照)、理想論も大切にしている。今回の対談を通して、われわれの共通の敵は〝さわやか〞なのかもしれないと思いました。納得がいかないところは、徹底的に議論したので、話はかなり込み入りましたね。

橋下 憲法にまつわる議論を集中的にできて、僕たちは楽しかったけどね。話題がマニアックになりすぎて、読んでくれる人をおいてけぼりにしていないか、ちょっと気になるんだけど(笑)。


はしもと・とおる 1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、97年に弁護士登録。タレントとしても活動し、2008年より政界に参画。大阪府知事、大阪市長、大阪維新の会代表などを歴任し、15年に大阪市長任期満了で政界を引退。現在はAbemaTVで毎週木曜23時OAの『NewsBAR橋下』にレギュラー出演中。近著に『政権奪取論 強い野党の作り方』(朝日新書)。

きむら・そうた 1980年生まれ。憲法学者。東京大学法学部卒。同大学助手を経て、首都大学東京教授に就任。『報道ステーション』(テレビ朝日系)でコメンテーターを務めるなどテレビ出演多数。幅広い層に憲法学を発信している。著書に『自衛隊と憲法 これからの改憲論議のために』(晶文社)、『憲法の急所』(羽鳥書店)など多数。