橋下徹 木村草太
徳間書店『憲法問答』より
木村 最後に改憲と国民投票についてお話しできればと思います。改憲といえば憲法9条ばかりが争点になりますが、ほかに注目しているトピックはありますか。

橋下 まずは解散権です。衆議院の解散は内閣が行うことになっていますが、憲法で明確に定められているのは憲法69条の内閣不信任案が可決した際の解散です。しかし実際は、憲法7条によって内閣は自由に衆議院を解散させています。

木村 ええ。天皇の国事行為について定めた第7条で「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」としたうえで、3号に「衆議院を解散すること」と書かれているだけです。内閣に自由な解散権を委ねるのは、世界標準に照らしても一般的ではありません。

橋下 解散権の根拠と手続きを明確にする必要があります。今は政権与党に都合のよいタイミングで解散できますからね。解散濫用を防止する方向を目指すべきでしょう。これも解散権を縮小させるというよりも、適切に解散権を行使させるという意味での立憲です。

木村 そうですね。私は、解散の際、国民に対して「なんのための解散なのか」を提示するのが大事だと思っています。なんのための解散なのかわからないまま、「解散したので衆議院選挙をしましょう」と言われても、何を基準に投票すべきか国民はよくわからないでしょう。

 たとえば、現行憲法の下でも、解散理由について衆議院で審議してから、効力を発生させるという手続きはできるはずです。そうすれば、消費税増税延期の是非を問うような場合に、政党ごとの賛成・反対を明確に議論してから解散できます。2017年の解散においても、モリカケ問題をきちんと議論してから解散を行うことができたはずです。

 今の解散は、首相が記者会見で一方的に説明するだけになっています。2017年の衆議院解散では、「国難突破解散」といういまいち納得できない理由で総選挙が行われましたしね……。

国会議事堂(宮崎瑞穂撮影)
国会議事堂(宮崎瑞穂撮影)
橋下 解散権は、国会議員を全員クビにする最大最強の権力ですよね。別に議員への解散理由の説明はいりませんが、有権者に説明する手順は必要だと思います。けれども解散権をやみくもに縮小させるのは違うんじゃないかとも思います。立憲民主党の枝野幸男さんたちは権力を縛る・縮小させることが立憲だという思想ですが、立憲とは権力を適切に行使させることですから。

 というのも、議院内閣制の下で内閣総理大臣がリーダーシップを発揮するためには、解散権をちらつかせながら与党をマネジメントすることも必要です。要は解散権をちらつかせて脅しながら言うことを聞かせるんです。北朝鮮のように銃殺なんてできないんですから、解散権でも使わない限り、政治家連中を束ねることなんてできません。なんでも縮小していくと、適切な権力の行使にならないんです。

 権力が強すぎても弱すぎても国民のためにはなりません。解散権を単純に縮小させるのではなく、きちっと仕組みや手続きを定め、必要な解散権を適切に行使できるようにするのが立憲です。解散権をやみくもに縮小させることが、絶対的な正義ではないですよね。

木村 解散権といえば、イギリスの事例が注目されています。イギリスでは首相が自由に解散権を行使できる制度だったのですが、2011年の「議会任期固定法」によって下院の3分の2の賛成か、不信任案可決のときだけ解散できるように変更されました。 このルールは基本的に妥当と思いますが、ひとつ心配なのが、首相が特定法案に信任をかけるやり方が使えなくなることです。小泉元総理のように「郵政法案に信任をかけたい」とか、菅元総理のように「再生エネルギー法案に自分の信任をかけたい」といったことができなくなる。 

 ですから、解散権の濫用を防ぐための憲法改正をする場合、法案に信任をかけていいという条文が必要かもしれません。それができないと、与党マネジメントの観点からは弱くなりすぎます。