橋下 なるほど。国民投票が、国民によるただの拒否権だとすると、決めるのは国会議員だとなるので、国会議員が改正案の中身に賛成の場合にだけ国民投票にかけることになりますね。そして国民は、案に反対のときだけ国民投票で否決する権利を有する。しかし、国民が実質的な決定権を有しているのであれば、国会議員は改正案の中身に反対でも、とにかく国民投票にかけることを優先しなければならない。今の日本国憲法の憲法改正国民投票は後者の色合いが強いということですね。

木村
 日本国憲法の条文を解説している『註解日本国憲法』(法学協会)には、国民が主権者であると宣言されており、拒否権ではなく承認という言い方をしている点を重視しています。つまり、「国会が決定したら原則成立させるべきで、あまりにひどい場合だけ国民が否決する」のではなく、あくまでも「どちらでもありうるのを前提に、国民の判断を仰ぐ」という感覚です。そうなると、決定権限を持っているのはあくまで国民であり、国会が判断すべきなのは、「この案を実現した方がよいか」ではなくて、「この案は国民に判断してもらうべきことか」です。

橋下 これこそが立憲ですよね。大阪都構想の住民投票のときにも、大阪都構想に反対の大阪市議会議員は、都構想に反対だから住民投票にかけることにも絶対反対という姿勢でした。議員が実質的な決定権を持っているという認識だったのでしょう、市民に決定を委ねるという謙虚さがまったくありませんでした。最後は政治闘争によって、公明党に住民投票にかけることまでは賛成させましたが、その後の住民投票の際には、公明党は強烈な反対運動を展開して、見事大阪都構想案を否決させましたよ(笑)。

 ところで、ひとつの改正案のなかには論理矛盾がなくても、複数の改正案の間で論理矛盾がある場合もありますよね。これも改正案の発議のところで形式審査を行い、改正案を整える必要がありますね。

木村 たとえば、9条を改正するときに、個別的自衛権に限定する案と、集団的自衛権を入れる案の両方が発議されようとしている場合ですかね。この場合には「何も改正しない」、「個別的自衛権のみ」、「集団的自衛権を含む」のどれがいいかを国民に聞くのが国民にとってもわかりやすいだろうと思うのですが、そういう発議の仕方は想定されていません。改正案ごとにひとり1票、賛成か反対かを入れる仕組みになっています。

 もしも矛盾する2つの案が同時に発議されて、両方可決した場合、処理ができなくなりますよね。ですから、ここの整理だけは国会である程度する必要があると思うんですね。

橋下 個別的自衛権に限定する改正案と、集団的自衛権を入れる改正案を同時に国民投票にかけることは絶対にできませんかね。もし両方の改正案が国民投票で可決された場合、賛成の票数の多い方を採用するとか、ふたつ目の案が可決したらひとつ目の案は削除するとか、できないでしょうか。

木村 ひとつ目の案を消滅させる発議をしていないので、両方可決することになりますね。あるいはふたつ目の案に、ひとつ目の案を消すという条文を入れ込まないといけませんが、技術的には難しいですね。

橋下 だとしたら、やはり国会の発議の段階である程度の審査が必要になってきますね。他方、改正案の中身を審査し過ぎると、結局改正案に反対の場合には国民投票にかけることまで反対に繫がってしまう。発議の段階で国会がどこまで審査するのか、そしてどのようなときには改正案には反対でも、国民投票にはかけていくべきなのか。ここはまだ全然議論されていないようなので、憲法学者のみなさんにぜひ整理してもらいたいところです。