その後、2人以外に日鉄の八幡製鉄所や釜石製鉄所で強制労働させられた被害者が183人(うち生存者48人)いたことが判明し、彼ら全員の救済を求めて日鉄と交渉も続けましたが、2003年に日本の最高裁が請求を棄却したため、会社側との交渉も途絶えてしまいました。納得できない被害者側は、全員が一斉に提訴すると審理に膨大な時間がかかるため2005年に5人の被害者に絞ってソウルの裁判所に訴えを起こしました。

 その間、2002年に誕生した盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、日本の植民地支配や朝鮮戦争での民間人虐殺、独裁政権下での弾圧事件など過去の政権によって行われた不正をただし、損害を受けた人たちの人権回復の取り組みを進めることで、より良い韓国社会を目指そうという政策を推し進めていました。

 そのような流れの中で日韓条約に関する公文書が公開され、日韓両政府が植民地支配責任の問題を曖昧にしたまま条約を締結したことが暴露されました。また、条約締結後の韓国政府の被害者への施策についても不十分であったことが明らかとなりました。これを機に韓国政府は日本に強制動員されて亡くなった被害者一人当たり2000万ウォンの支給や生存者への医療援助などの施策を実施しました。

 日韓条約・請求権協定は締結まで14年もかかりました。日本が過去の植民地支配は合法であったと主張したのに対し、1910年以降の植民地支配は違法であったと主張する韓国と根本的な対立があったからです。最終的に「もはや」無効であるという文言でどちらにも解釈できるよう政治決着し、ようやく締結にこぎつけたのです。

 このため「有償・無償5億ドル」についても、日本政府は「独立祝い金」=経済援助であり、植民地支配への賠償ではないと明言しています。そして、無償援助の3億ドルですが、実際は当時の韓国政府が日本に負っていた「借金」4573万ドル分を差し引いた金額が援助されています。また、有償援助と合わせた5億ドルも一括して渡されたのではありません。請求権協定の条文に書かれている通り、10年間の年賦で支払われました。

 しかもこれは「現金」ではなく、日本製の工業製品や建設資材などの現物支給によるものでした。つまり、日本政府が日本企業から製品を買い上げたり「役務」を韓国に提供することによって、両国の経済発展に貢献したのです。それ以外にもさまざまな借款・供与がなされました。韓国はこれらの援助も活用して「漢江の奇跡」と呼ばれた経済発展を遂げ、日本企業も利益を得て「高度経済成長」を支えることにもなりました。
2018年10月30日、日本企業に賠償を命じた判決が確定し、記者会見する原告の李春植さん(中央)と支援者ら(著者撮影)
2018年10月30日、日本企業に賠償を命じた判決が確定し、記者会見する原告の李春植さん(中央)と支援者ら(著者撮影)
 現在、日韓の経済関係は貿易総額7・74兆円(2016年)、投資残高で言えば日本から韓国への投資3兆7695億円(2015年)、韓国から日本へは3843億円の残高があります。16年には韓国からの来日者数が500万人を突破するなど、インバウンド(訪日外国人)効果をみればおよそ3億ドル(現在のレートなら330億円余り)を韓国から返してもらった計算になります。もし、日本が韓国と「国交断絶」すれば、日本経済への打撃は計り知れないものがあります。