2012年5月、韓国大法院は「1965年の日韓請求権協定は一般的な財産権処理の協定であり、植民地支配下の強制労働は韓国の憲法に違反し無効」「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や、植民地支配に直結した不法行為による損害賠償請求権が、請求権協定の適用対象に含まれたと見るのは難しい」として、同じく三菱重工を訴えた事件と合わせて審理を高裁に差し戻しました。

 この時も日本政府は請求権協定ですべて解決済みであるとして、判決を非難しました。この判決に基づいて2013年7月の差し戻し審で被害者一人当たり1億ウォンの損害賠償が認められると、これを不服として新日鐵住金が上告したため、再び大法院で審理される運びとなり、今回の判決を迎えました。

 個人請求権が条約などによって消滅するかについて、原爆訴訟やシベリア抑留訴訟で日本人被害者から訴えられた日本政府は「消滅したのは外交保護権で個人請求権は消滅していないので、アメリカやソ連を相手に訴えればよい」と主張したのです。その手前、日韓請求権協定によって韓国人の個人請求権が消滅したとは言えず、個人請求権の存在を認めています。

 今回の判決は、日本政府も認めている個人請求権を韓国人が行使して日本企業を相手に韓国の民事訴訟で判決が確定したということです。どこにも国際法違反はありません。あるのは「請求権」の解釈の問題です。

 日本政府は請求権協定の第2条3項で「いかなる主張もすることができないものとする」という条文を盾に「全て」の請求権が消滅したと主張していますが、請求権協定第3条には協定の解釈や実施に当たって紛争が生じた場合は、まず外交交渉で解決を目指し、それで解決しなければ仲裁委員会を設置するとあります。韓国の司法から請求権の解釈について「疑義」が提起されたのですから、行政府としての韓国政府は三権分立の原則から司法判断を尊重して日本政府と外交交渉を始めるべきです。

 また、日本政府もICJ(国際司法裁判所)への提訴ではなく、まず外交交渉による解決を目指し、まとまらなければ協定に定められた仲裁委員会を設置して解決するのがまさに「国際法」に基づく解決方法ではないでしょうか。
2018年11月、遺影を手に新日鉄住金本社を訪れる原告の弁護士ら(著者撮影)
2018年11月、遺影を手に新日鉄住金本社を訪れる原告の弁護士ら(著者撮影)
 日本で2人の元徴用工が裁判に訴えてから21年が経ってしまいました。差戻審直後の2013年12月に呂運澤さん、翌年2014年10月に申千洙さん、今回の大法院の判決直前に金圭洙(キム・ギュス)さんの3人が相次いで亡くなり、今回判決を迎えることができた原告は李春植(イ・チュンシク)さん一人でした。

 6年前の大法院判決のときに、今回の判決は予測できたはずです。韓国政府はすでに2005年時点で被害者への追加の支援策を行いました。日本政府も遅くとも2012年の大法院判決のときにこれに応えて植民地支配に対する責任をきっちり果たすべきであったと思います。