「東南アジア諸国は、そういう事態にはすぐにならないことを望むけれども、米中確執が深まっていけば、米中のいずれかを選ばなければならなくなる」

 シンガポール単独としてならばともかくとして、東南アジア諸国が総体として、米中両国のいずれかを選ぶようなことができるのかは、定かではない。ただし、そこには、米中確執の狭間に置かれかねないシンガポールや他の東南アジア諸国の現状を前にして、リー氏が抱いた切迫意識が浮かび上がる。

 翻(ひるがえ)って、文氏の対外姿勢からは、リー氏が抱いているような切迫性を嗅ぎ取るのは難しい。そうした文氏における切迫意識の欠如こそが、彼の対日「尊大・軽視」姿勢にも反映されているのであろう。

 日本経済新聞(電子版、11月22日配信)は、韓国大法院判決に対する米国の反応を報じた記事の中で、「米政府では最近、韓国による南北協力の傾斜に警戒感が高まっていた。韓国が米国と十分な相談もなく、南北境界線の上空を飛行禁止区域に設定したことには米が不満を伝えている。きしみつつあった米韓協調に新たな火種が加わった格好だ」と伝えている。

 この記事は、対日関係を顧みない文氏の姿勢が米韓関係の軋(きし)みも増幅しているという認識が米国政府部内に広がっていることを示唆している。文氏は、そうした米国政府部内の懸念の意味を適宜、理解しているであろうか。前に触れた文氏における切迫意識の欠如は、そのことを指してのものである。

 そもそも、1980年代末期以降、韓国が享受した「民主主義体制」「経済発展」「『安全保障は米国、経済は中国』を趣旨とする外交の自在性」の3点セットは、過去30年の「冷戦間期」の国際環境の所産であった。韓国の対日姿勢は、それがポジティブなものであれネガティブなものであれ、そうした3点セットを反映したものであった。
2018年10月、韓国・済州島で行われた国際観艦式で掲揚された李舜臣将軍を象徴する旗。手前は韓国の文在寅大統領(聯合=共同)
2018年10月、韓国・済州島で行われた国際観艦式で掲揚された李舜臣将軍を象徴する旗。手前は韓国の文在寅大統領(聯合=共同)
 しかし、「冷戦間期」が終わり、この韓国繁栄の3点セットを支えた条件が揺らぎつつある今、韓国は近時には際立っている対日「尊大・軽視」姿勢を含めて、従来の対外姿勢を続けていられるのであろうか。文氏の対外姿勢には、「冷戦間期」の惰性が強く反映されているのではないか。

 今後、日本の対韓姿勢を語るに際しては、こうした韓国の対外姿勢の観察や評価が全てに優先される。韓国の対日姿勢の一々に正面から反応するのは、当節、もはや大して意味のないことであろう。