遠藤勝裕(日本学生支援機構理事長)

 日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度に関し、このところ「奨学金破産」「保証人から説明せずに全額請求」などの新聞報道が見られ、過日に放送されたNHKの『クローズアップ現代プラス』では「社会の土台を食い荒らすシロアリのような存在」とまで言及されている。

 こうしたネガティブキャンペーンの意図は不明ながら、これらにより奨学金制度が誤解され、勉学意欲と能力がある若者たちが奨学金の利用による大学や専修学校への進学をあきらめる、といった事態だけは断じて避けなくてはならないと思っている。そこで、奨学金制度を正しく理解していただくために、限られたスペースではあるが、制度の現状と課題について申し上げたい。

 そもそも、JASSOの奨学金は、憲法第26条と教育基本法第4条に定められた「教育の機会均等」を実現するための国の制度である。制度の発足は古く、昭和18年10月まで遡(さかのぼ)るが、以来支援した学生数は1288万人に上り、その若者たちが戦後復興から経済発展の担い手となり、70有余年に亘り日本社会を支えてきたと言えよう。そして現在は高等教育機関に学ぶ学生のほぼ3人に1人をJASSOの奨学金が支援しており、社会を支える重要インフラとして機能している。決して「シロアリ」などではない。

 平成29年度の貸与人員は約130万人、貸与金額は1兆円に上り、わが国全体の奨学金事業のほぼ9割を占めている。貸与人員の8割強は大学、大学院などであるが、特徴的なのは専修学校の学生も22万人近くに上っているほか、放送大学等通信制で学ぶ人たちも支援していることである。

 このため、貸与学生の在籍学校数は3647校を数え、うち専修学校は2485校と7割近くを占めている。JASSOの奨学金は専門的技術・技能の習得に向けて学ぶ学生を支えており、この面でも社会の重要インフラとして機能している。

 貸与奨学金には無利子(第一種)と有利子(第二種)があるが、ここ数年は奨学生の負担軽減のため、無利子のウェイトを高めている。ちなみに平成25年度の25%に対して29年度には33%、約3分の1が無利子となっている。

 なお、有利子の金利について、「3%という高利を貪っている」と誤解され、あるいは歪曲され喧伝されることがあるが、3%は法令上定められた上限金利である。実際にはJASSOが国から借入れる財政融資資金の金利と同一に設定され、現在は0・01%(変動の場合)、そしてこれはそのまま国に償還しており、JASSOが民間金融機関の様に「利鞘(りざや)を稼いでいる」ことは全くない。

 ところで年間1兆円にも上る巨額の貸与原資をJASSOはどう調達しているのであろうか。ちなみに平成30年度予算では、8割強(81・9%)が返還金となっており、これは返還者が稼いだ金が後輩たちへの貸与資金となっていることを意味しており、この流れは「健全な日本社会の象徴」と私は自負している。
日本学生支援機構の遠藤勝裕理事長(同機構提供)
日本学生支援機構の遠藤勝裕理事長(同機構提供)
 なお、残り2割は財政資金のサポートを受けているが、有利子奨学生については、在学中は金利負担を猶予しているため、この間は規則により財政資金が借りられず、債券発行や借入により、民間の金融市場から調達している。余談ながらJASSOが発行する債券は、国際資本市場協会(ICMA)が定める社会的課題解決のために発行される社会貢献度の高い債券、いわゆる「ESG債」と認定されており、JASSOは国際的にも「社会貢献度の高い組織」と位置づけられている。

 さて、こう記してくると、「貸与原資となっている返還金の元は何なのか」との疑問がわいてこないであろうか。そもそも制度スタートの時に資金がなければならないからである。昭和18年10月に「大日本育英会」(JASSOの前身)としてスタートした際、まず国は財政資金100万円(当時)を投じているが、翌昭和19年4月、昭和天皇自らが御手許(おてもと)金100万円を拠出され、あわせて200万円(当時)でJASSOの事業が始まっている。

 この200万円を原資として、以後連綿として「貸与、返還、貸与」の好循環が繰り返され、現在の資金規模となっている。元を正せば天皇陛下の拠出金を含め全て公的資金である。