ある日、繁華街で配られているポケットティッシュに「誰でも簡単、高収入」の文字を見つけた。「お酒が飲めなくてもOK」「週1日~時給4千円以上、1万円も可」と書いてある。ファストフード店と比べておそろしく魅力的な条件だった。そう、キャバクラである。

 拙著『キャバ嬢の社会学』でも述べたが、キャバクラやガールズバーの多くは、水商売の初心者でも「気軽に」働けることをウリにしている。「飲酒なしでOK」「ノルマなし」「未経験者歓迎」など、若い女性ならほとんど誰でも良いというようなキャッチコピーで人を集めるのだ。

 彼女は勇気を出して面接へ行った。ニコニコしたおじさんが出てきてシステムの説明をされ、身分証を提示したら、その日から働くことができた。夜中の12時まで4時間働き、1万6千円を手にした。ファストフード店の5倍。親への罪悪感はあったが、学費を払うために四の五の言う暇はなかった。

 そこからは、週3回キャバクラ勤務の日々が始まった。毎月12万円の生活費、年間100万円の授業料は払ったが、寝ずに授業へ行く日が続き、ノルマのために深酒するようになった。2年以上、キャバクラ嬢として売り上げを上げ続けたが、ある日、色恋に狂った客からレイプされそうになり、店のスタッフがそれを止めなかったことで、全てが嫌になった。自分が若さや女を売りにして利益を得ることが、搾取されることと表裏一体であることに絶望したのだ。

 「ものすごく傷ついたし、学費を払うためにどうしてこんなに苦労しなきゃいけないのか、最悪だと思った。でも、いろいろ大事な経験をしたと思う」と、彼女は静かに語った。

 これは私の肌感覚だが、2008年のリーマン・ショック後に、キャバクラ嬢として働く女子大生が急激に増えた。理由はほとんどが「親の仕送りがなくなったから」。一見するとキャバクラで勤務しているようには見えない、というと語弊があるが、世間が思う派手なキャバクラ嬢とは違う、「真面目そうな普通の女子大生」が夜の店で働くようになった。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 時を同じくして、ガールズバーやラウンジなど、キャバクラよりもさらに「ゆるい」形態の水商売が盛り上がりを見せた。飲酒しなくてよい、私服でよい、髪の毛をセットしなくてよい。接客はカウンター越しで、セクハラの心配も少ない(ということになっている)。夜の仕事のハードルはどんどん下がり、親の仕送りに頼れない学生や、生活費にゆとりが欲しい学生の一部がそこへ流れていった。

 「大学のユニバーサル化」は同時に、「水商売に従事する大学生のユニバーサル化」も進めた。男子学生さえ、例外ではなかった。