中島洋(MM総研所長兼国際大学教授)

 「防犯カメラ」とは何か、「プライバシー」とは何か。2つの概念があいまいだと議論は空転するだけである。端から見ていると、空転する議論ほど面白いものはないので、エンターテインメントとしては格好の材料である。ただ、筆者としては、議論をつまらなくするかもしれないが、あえて2つの概念を明確にさせてみたい。

 まず、「防犯カメラ」である。

 「防犯カメラ」は監視カメラの一種である。監視カメラは、カメラ装置によって撮影した画像、映像で、リアルタイムまたは時間を置いた形で、周辺の状況を把握し、特に人間の行動をとらえて不審な点がないか点検するものだ。通常は遠隔地でこれらの映像や画像を見る仕組みになっている。監視者は不審があれば警備行動に移り、または、後日の犯罪の分析や捜査、あるいは裁判のための記録に供される。

 「防犯カメラ」とはいえない「監視カメラ」もある。例えば監獄の中の囚人を監視する監視カメラは必ずしも「防犯」目的とはいえない。言葉の厳密な意味での「監視」である。この監獄の監視カメラのイメージを引きずりながら防犯カメラを論ずると、一般市民が監獄の中の囚人と同じ扱いである、と強い抵抗感を持つことになる。また、オフィス内のスタッフの行動を撮影して動線などを分析し、業務改善策を講じることにも使われている。こうしたものも防犯目的ではない監視カメラの一種といえるだろう。

 一方で、市民や利用者の安全を確保するために、防犯目的でカメラを設置する動きがある時期から広がった。繁華街への設置が「プライバシーの侵害」と批判する市民運動家やマスコミもあったが、実際に犯罪者の早期摘発をもたらし、周辺住民の不安解消に役立ったことから普及し、今では住宅街に広がっている。これも「監視カメラ」なのだが、防犯目的だということで、抵抗感の少ない「防犯カメラ」という呼び名を選ぶようになった。
多発する痴漢被害を防ぐため、JR埼京線に試験的に設置された車内防犯カメラ=2009年12月、埼玉県川越市(共同)
多発する痴漢被害を防ぐため、JR埼京線に試験的に設置された車内防犯カメラ=2009年12月、埼玉県川越市(共同) 
 街頭だけではなく、あまり議論もなく、オフィスやマンションのエレベーターにも内部の状況を監視する防犯カメラが目立たない形で設置され、マンションでは廊下にも設置されるところが出ている。カメラがあることが犯罪抑止につながるので、コンビニやスーパーの店内でも目立つ形で「カメラ」を設置している。

 犯罪が起きてから摘発に役立っても「防犯」にはならない、と否定的議論も一時あったが、早期摘発で再犯を防ぐことやカメラがあることで犯罪を抑止する効果もはっきりしたので、やはり「防犯カメラ」と呼ぶべきだろう。

 電車の内部を撮影するカメラも「監視カメラ」には違いないが、痴漢や暴力行為を抑止する「防犯」が目的なので、監獄の中のカメラとは性格が違い、「防犯カメラ」と呼ぶのが適切だろう。