筆者が勤めるクリニックに、常習的な痴漢問題で受診する人が年々増加している。また、彼らが痴漢行為を始めてから専門治療につながるまでの平均期間は約8年である。その間、彼らは毎日の通勤電車で痴漢行為を繰り返す。単純計算しても、数千人単位の被害者を出していることになる。

 そして、驚くべきことに、受診者で最も多い階層は、四大卒で家庭があるサラリーマンである。つまり、痴漢を繰り返す人は見た目ではわからない、ごく普通に社会生活を送っている男性ということになる。もしかしたら、その人はあなたの職場にもいるかもしれない。

 では、彼らはなぜ痴漢になっていくのだろうか。ここで「なっていく」と表現したのは、彼らは最初から痴漢として生まれてくるわけではない。つまり、先天的、遺伝的要因ではないのだ。

 また、「将来の夢は痴漢です」と答える人がいないように、痴漢になりたいと思って生きているわけではない。彼らは、この日本社会の中で痴漢になっていくのだ。

 つまり、環境やライフスタイルへの適応行動としての痴漢という側面がある。痴漢は学習された行動である。

 最近のケースで、数年前に海外から日本に派遣されてきたあるエンジニアが、「日本に来て痴漢になった」と診察場面で言っていた。母国では満員電車も無いが、痴漢を含む性犯罪をした経歴も無い。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 彼は、日本のライフスタイルに適応するプロセスで「CHIKAN」になったのである。当クリニックにたどり着いたころには、既に常習化しており、執行猶予期間中の再犯であった。

 痴漢たちは自らの問題行動を繰り返すために、現実を都合よく歪(ゆが)めて捉えている。これを私たちは「認知の歪み」と呼んでいる。この認知の歪みには多種多様なものがあり、それを私は「痴漢神話」という形でまとめているため、その一部を紹介する。