相澤冬樹(大阪日日新聞論説委員・記者)

 私は1987年、NHKに記者として入り、以来31年間、報道の世界で仕事をしてきた。最後は大阪司法記者クラブに所属し、森友事件などを取材した。

 当時、年齢が55歳で、一線の記者としては超異例の存在だったが、自ら希望して取材の仕事を続けてきた。今年5月、記者職から外すという人事異動が示され、取材を続けるため8月いっぱいでNHKを辞め、大阪の地方紙「大阪日日新聞」に移籍した。

 その後、NHKの主に若手記者の有志が壮行会を開いてくれた。その席で私は以下のようなあいさつをした。


私が退職したことでNHK批判や政権批判をすると思っている人もいますが、それは違います。NHKにも批判すべきことはありますが、それはその都度批判すればいいことです。記者を外すという人事には納得していませんが、辞めてしまった今となってはどうでもいいこと。NHKについて私が思っていることは『NHKの記者は日本一厳しい環境で仕事をしている』ということです。これは上からの圧力とかそういうものではなく、ここにいる皆さんはわかっていると思うけど、日本一厳しい要求水準のもとで仕事をしているということです。新聞ならば、民放ならば、これだけ取材すれば十分記事になるということでも、NHKではさらに高い水準で事実確認を求められる。そしてインタビューも隠し撮りではなく、相手を説得して堂々と撮らねばならない。そこをクリアしなければニュースに出せないから信頼性が高い。私はこの日本一厳しい要求水準のもとで31年間鍛えられました。そのおかげで今の私があります。ですから私は、私を育ててくれたNHKに感謝しています。皆さんにお願いしたいのは、皆さんも日本一厳しいNHKの要求水準のもとで修行を積んで、日本一の記者になってほしいということです。私も引き続き修行を積んで一生成長し続けたい、そうできると思っています。


 これはすべて本音。本心からこう言った。NHKの報道にはいろいろと批判があるし、中にはもっともな批判もあるが、だからといってNHK報道のすべてが否定されるとは思わない。

 例えば私が主に歩んできた事件報道の世界では、事実確認の場面で先ほどの「日本一厳しい水準」がまさに要求される。関係者の人権にも深く配慮し、報道するかどうかや、報道する場合の内容・表現を十分に吟味する。災害報道でも長年の実績があり、「大きな災害があればまずNHK」ということで視聴率が格段に上がる。私も公共放送としての期待に応える仕事をしてきたと自負している。
参院予算委員会のメンバーらが、「森友学園」が開校を目指していた小学校の建設予定地を視察=2017年3月、大阪府豊中市(前川純一郎撮影)
参院予算委員会のメンバーらが、「森友学園」が開校を目指していた小学校の建設予定地を視察=2017年3月、大阪府豊中市(前川純一郎撮影)
 NHKへの批判は主に政治報道をめぐるものが多いだろう。しかし、NHKは公共放送として放送法の規定に縛られている。予算は国会の承認が必要だし、経営委員会の委員は衆参両院の同意を得て内閣総理大臣が任命する。金と人事を握る相手には弱くならざるを得ない。

 つまり今の放送法の規定の下では、NHKがある程度、政治と「折り合って」いくことはやむを得ない側面があり、だから政治部出身者が歴代報道局長や理事、さらには会長になることが多かったのも、ある意味、必然性がある。これが不服なら放送法の規定を変えるしかない。法律の規定がそうなっているのにNHKのありようだけを批判するのは、いささか筋違いのように感じる。