「ああ、これが干されるってことか…」。まるで漫画やテレビドラマのような展開に半ば呆然としつつ、本編作品とは全く無関係かつ私的な問題でありながら、原作者や視聴者、シリーズを大事に積み重ねてきた作品に対する全ての人の思いを全く無視した態度に強い憤りを覚えた。

 ただ、この件に対するNHK側の主張としては、あくまで強制降板ではなく「契約満了」ということらしい。しかも、先ごろ『おじゃる丸』放送20周年のイベントもあったようだが、初代おじゃる丸声優(オリジナル音声「発声」)の筆者には何のお声もかからず、盛大に行われたようである。

 以上が第3シリーズで『おじゃる丸』を降板することになった一連の経緯である。実は番組プロデューサーにはこの間、何度も面談を申し入れたが、一切話し合いの場に出てくることはなかった。結局、解決の糸口はつかめないまま、ほどなくしてインターネット上では「高額なギャラを請求しておじゃる丸を降ろされた」「小西の事務所は反社会的勢力だ」「女優に転向するために声優を引退した」などと事実無根の書き込みや、筆者の人格攻撃をするまとめサイトまで現れ、他の仕事や出演依頼も徐々に減っていった。どちらかと言えば、筆者は口下手な方であり、同業の親しい友人もいなかった。しかも、この一件以降、それまで交友のあったスタッフとも何となく音信不通になってしまい、当時はネットをほとんど見ていなかったこともあり、よもやそんな風説が流されているとは知るよしもなかった。

 もちろん、逆の立場で考えれば、事実無根とはいえ「反社会的勢力とつながりがある」かのような噂が独り歩きすれば、大抵の人は関わりたくなくなるだろう。結局、声優としての出演依頼はほぼなくなり、そもそも所属事務所が音楽関係だったので、表現の場はほとんど音楽になっていった。それでも、筆者が音楽活動をすれば「アーティスト気取り」などと陰口を叩かれたこともあった。当時は20代前半だったから、精神的ショックもかなり大きかった。

 それから時が流れ、2015年ごろだったと思う。ふとネット検索をしていた事務所スタッフが、筆者に関する前述のような事実無根の書き込みや記事を複数見つけた。このとき初めて、悪意に満ちた風説が10年以上も放置されていたことを知ったのである。驚きと同時に怒りに震えたが、匿名というネットの壁に押しつぶされ、途方に暮れた。
※画像は本文と関係ありません(GettyImages)
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 しかし、このまま一生汚名を背負っていくわけにはいかないと思い、名誉を回復したい一心で、名誉毀損記事の削除を求めて裁判所に仮処分を申し立てた。匿名とはいえ、書き込んだ人物への厳重な処罰を求めて刑事告訴にも踏み切った。それから多大な時間と労力をかけてようやく仮処分を勝ち取り、16年には神奈川県相模原市のアニメライターの男性が起訴され有罪となったが、それでも筆者が失った十数年が戻ってくるわけではない。

 とはいえ、この経験はとても有益であったことに変わりはない。できれば、もっと詳述したいところだが、これはまた別に執筆する機会があれば報告したいと思う。