さて、現在の筆者は売れない音楽を自由にやれるのが心地良く、むしろ表舞台よりスタジオに引きこもっている方が性に合っている。たまにヤフーオークションに出品されたヴィンテージギターを指をくわえて眺める日々である。そんな引きこもり生活を続けていたある日、一本の電話が再び悪夢を呼び覚ました。

 電話の発信元は、NHK関連会社の社員。実はその後、この社員による不正が発覚し、(筆者が法務を手伝う)事務所の関連会社もトラブルに巻き込まれそうになった。詳述は避けるが、簡単に言えば、「不正のもみ消しへの関与(金品の要求等)」を半ば脅しのように迫られたのである。このときは「言う通りにしないと…」と瞬時に18年前のことが頭をよぎった。公共放送という立場を忘れ、まだこんな傍若無人な振る舞いを繰り返しているのか。怒りを抑えつつ、NHKにも事の経緯を書面で通知した。ところが、NHK側は「問題の社員は適正に対処した」と数カ月経ってようやく回答しただけで、いまだ謝罪さえもないのである。

 まるで18年前の理不尽な扱いと同じである。もう泣き寝入りはしたくない。筆者は怒りに任せて、あのときの降板の経緯をツイッターで初めて告白した。18年前はまだチャットがはやり出したくらいで、メールのやりとりさえ珍しかったのに、今や発信した情報は瞬時に拡散され、知りたい情報がどんどん入ってくる。良くも悪くも便利な時代である。筆者のツイートは瞬く間に広まり、民放各局のテレビ番組でも取り上げていただき、さらに発端となった「おじゃる丸人形」の情報をツイッターで求めたところ、件の人形のほかにも時計やゲーム、景品などさまざまな類似商品が存在することを知った。要するに、NHKエンタープライズをはじめとするNHK関連会社が、商品の企画・製作の全てを筆者に隠し、10年以上にわたり販売・流通させていたのである。

 18年前のあの時、事務所担当者の質問に異常なまでに反応して常軌を逸し、「干してやる」とまで激怒した理由はこれだったのか。長年、腑に落ちなかった疑問がやっと解けた瞬間だった。

 こうして動かぬ事実が新たに発覚したにもかかわらず、NHK側は今もただ「知らぬ存ぜぬ」を貫いている。これでは一向にらちが明かないと思い、筆者は今年8月、被疑者不詳の著作隣接権侵害で警察に相談し、告訴状を提出した。

 もちろん、「NHKが憎い」とか単なる私的な感情で動いているわけではない。明確な著作隣接権侵害、すなわち音声の無断使用がなければ、筆者はおじゃる丸を降板させられることもなかったはずだ。しかも、NHK側からはいまだ謝罪はない。言葉は悪いが、公共放送を標榜しながら反省すらしないNHKのやり方が許せないのである。なお、この原稿を執筆中にも、ここ最近の事案として今年9月に開かれた「大おじゃる丸博」でも、筆者の声が使用されていたという情報をフォロワーからいただいた。
NHK放送センター=東京都渋谷区(GettyImages)
NHK放送センター=東京都渋谷区(GettyImages)
 18年前のことを今になって騒ぎ立て、「売名行為だ」という批判も聞こえてくる。はっきり言うが、筆者にそんな気持ちなどない。ただ、突然の降板から18年を経て再び起こった悪夢のような出来事が、筆者の背中を後押ししたことは間違いない。悪魔のささやきか、天の与えた使命か、はたまた勘違いか。それは神のみぞ知る事なのかもしれないが、些細な経験とはいえ、それがもし悪しき慣習を変えるきっかけになるのであれば、ただただ幸いである。

 それと同時に、ツイッターなどでいただく温かいメッセージはとても心強く、疲れを癒してくれる。『おじゃる丸』は降板させられたが、筆者の社会的存在までは降板させられていない。覚悟を決めた筆者の思いを決して侮ることなかれ。

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