したがって、パワーを持つ人がミッションの達成に全力になってしまうと、立場の弱い人の気持ちが分からなくなるのです。そのため、時に強引に人を動かそうとしてしまいます。

 その中で、ミッションに協力的でないメンバーに対して、批判的になることもあります。時に批判がエスカレートして人格を否定するような態度になることもあるのです。

 立場が弱い人にとって、これは恐ろしいことです。相手は権力者ですから、尊厳を傷つけられて内心は憤っていても、社交的な笑顔で対応してしまうこともあります。こうしてミッションに忠実な権力者は、本当は「立場が弱い人はいたわるべきだ」という良識を持っていたとしても、時にパワハラの加害者になってしまうのです。

 権力者が自分に与えられた社会的パワーを自分の才能や能力と錯覚してしまうと、さらにパワハラが起こりやすくなります。ミッションのために預かっているパワーであることを忘れて、子供がおもちゃを振り回すかのようにパワーを使ってしまうからです。

 これは残念ことですが、大きな実績を評価されて立場を得た人、長く立場にある人に多いようです。社会的パワーを実績に対する報酬や実力のように勘違いしてしまうのです。

 このような加害者には時に脅しのような態度も伴います。自分が絶対的な正義と信じているので、自分の思い通りに動かない人は間違っている人ということになります。

 間違いを犯す愚かな弱者を導く英雄のような気持ちになっているのです。なので、ためらいなく脅したり、将来を呪(のろ)うような言葉を投げつけるのです。

 良識があったパワハラなのか、錯覚に陥っていたパワハラなのか、実際問題として線引きが難しいところです。その中間的な事例も多いようです。

 千恵子氏の場合も確かな根拠はない状況ですが、マスコミへのリリースなどを見る限りパワハラの自覚がなかったことは間違いなさそうです。パワーを持つ人は自分がパワハラを冒すリスクを考慮して弱者の気持ちを気遣う配慮が欲しいものですね。
2011年10月、世界体操の予選を翌日に控え、練習で選手らに指示を出す塚原千恵子監督(門井聡撮影)
2011年10月、世界体操の予選を翌日に控え、練習で選手らに指示を出す塚原千恵子監督(門井聡撮影)
 なお、実はパワハラ被害者の多くは事態を問題として取り上げてもらえません。黙ってパワハラに耐えている被害者も少なくないのです。

 なぜなら、パワハラは加害者と被害者の圧倒的な社会的パワー(権威)のアンバランスを背景にしているからです。圧倒的なパワーの余波で、誰にも取り合ってもらえない場合もあります。万が一被害者になってしまったときに、宮川選手のように広く知ってもらう手立ても考えておきましょう。