水野基樹(順天堂大学スポーツ健康科学部 先任准教授)

 「人生の節目となる瞬間は、自分でそれと分からない(We don’t recognize the most significant moments in our lives when they happen.)」。これはアメリカのハリウッド俳優であるケビン・コスナーが実在するMLBメジャーリーガー役を演じた映画『フィールド・オブ・ドリーム』における象徴的なセリフである。

 2018年8月29日、体操の2016年リオデジャネイロ五輪女子代表の宮川紗江選手が記者会見を開き、日本体操協会の塚原夫妻をパワハラ告発した。今後、宮川選手が今回の行為を回顧的にみたとき、まさに自分自身の人生を一変させる出来事(転機)となるであろう。

 それと同時に今回、第三者委員会が下した判断をみても、選手側が協会側を告発することの困難さも露呈した。以下、日本体操協会のパワハラ問題について改めて考えてみたい。

 本稿では、①最近のスポーツ界において問題が表面化したいくつかのケースを概観して、②その表面化の背景として組織内部のホイッスルブロワーの存在を指摘する。そして、③日本体操協会の今回の一連の問題の論点を整理して、④マネジメント理論および組織理論からその解決の糸口を探ってみたい。最後に、⑤今後のスポーツ組織の発展に向けて、スポーツ組織のガバナンスおよびダイバーシティの問題と、組織変革を阻害する組織慣性について論及したい。

 2018年に入り、1月の女子レスリングにおけるパワハラ問題に端を発し、5月の日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題、7月の日本ボクシング協会による助成金不正流用問題、そして8月には、日本大学チアリーディング部と日本体操協会におけるパワハラ問題と、スポーツ界の不祥事が相次いだ。これらの問題に共通するのは、いずれも内部によるリーク(告発)、いわゆる「ホイッスルブロワー(Whistle Blower)」による問題の表面化という点である。

 ホイッスルブロワーとは、警笛を吹く人をさし、特に組織の不正を告発する内部通報者という意味で用いられる。サッカーやラグビーなどスポーツの試合においては、一定のルールの中で勝負をする際に、ルールに違反した選手には審判が笛を鳴らす。そしていったんプレーを中断して、ルール違反をした選手に注意や処分を与えてから試合を再開する。
宮川紗江選手への暴力行為について謝罪する日本代表の速見佑斗コーチ(手前)=2018年9月、東京都港区西新橋(撮影・今野顕)
宮川紗江選手への暴力行為について謝罪する日本代表の速見佑斗コーチ(手前)=2018年9月、東京都港区西新橋(撮影・今野顕)
 ビジネス界でも同様に、組織内で不正が行われていた際には、内部告発者が声を挙げて、健全な経営に回帰するよう働きかけるという制度がある。先日の日産ゴーン元会長の逮捕や食品の偽装表示事件など、組織内部からの通報を契機として企業不祥事が明らかになった事例は枚挙にいとまがない。