重村智計(東京通信大教授)

 北朝鮮の報道や声明をそのまま信じると騙される。真実は常に隠されており、裏読みが大切だ。筆者が繰り返し唱えるこの真理を、日本のメディアや専門家はなかなか理解しない。東京都美術館では、ノルウェーの画家ムンクの作品展が開催されている。彼の代表作『叫び』は、南北首脳の現在の心境を表現しているように思える。

 北朝鮮は12月17日、金正日(キム・ジョンイル)総書記の死去から7年を迎えた。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は幹部を従え、父親の遺体安置廟(びょう)を訪問し「(父親の)路線を固守した」と述べた。前日には、北朝鮮外務省の米国研究所が「非核化への道が閉ざされる」との談話を出した。

 これらの発言は、事態が好転しないことへの痛々しい悲鳴だ。一方で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率も40%台に突入し、なおも下降を続けている。

 今、北朝鮮の指導部で何かかが起きている。ここ数カ月、日米韓の情報機関は2人の高官の動静を注目していた。1人は、統一戦線部長を兼ねる金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長。米朝交渉の責任者だが、2カ月以上姿を見せなかった。米国のポンペオ国務長官は交渉相手の「金英哲」と連絡がつかない、と更迭の可能性に言及していた。

 もう1人は、朴光浩(パク・クァンホ)党副委員長だ。金委員長の妹の与正(ヨジョン)女史の側近とされ、大出世した。さらには、党の宣伝扇動部長を兼ね「実力者」と言われていた。それが、金総書記「七回忌」の写真に姿が見られなかった。

 朝鮮中央通信は12月17日、幹部を従えた金委員長が父親の遺体が安置される錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝する写真を公開した。早速、各国の情報機関はこの写真を徹底して分析した。
2018年12月17日、錦繡山太陽宮殿を訪れた金正恩朝鮮労働党委員長(奥の前列左から6人目)ら=平壌(朝鮮通信=共同)
2018年12月17日、錦繡山太陽宮殿を訪れた金正恩朝鮮労働党委員長(奥の前列左から6人目)ら=平壌(朝鮮通信=共同)
 ところが、金副委員長の名前と顔は確認されたが、朴副委員長の名前と顔は発見できなかった。朴副委員長は12月10日に、北朝鮮の人権侵害や言論封殺に関与したとして、米国の制裁対象に指定されたばかりだった。