たとえば、駅前でよく見かける中華の「日高屋」は、餃子にラーメンと生ビールで950円という、1000円以内の“せんべろセット”を提供している。手軽な価格というだけでなく、家庭では再現できない焼き立てのあつあつ餃子、そしてキンキンに冷えた生ビールはサラリーマンならずとも鉄板の組み合わせだ。

 また、今年6月に全店禁煙で話題となった「串カツ田中」は、禁煙後も客数は好調で、子供連れや若者など新しい客層が広がっている。もちろん、人気の秘密は安さにある。手軽な100円串から200円串まで取り揃えている。

 庶民の楽しみである、せんべろや100円串も、消費税の改定により価格転嫁を余儀なくされる。仮に店が増税分の“値下げ”で価格を維持しようと思えば、売り上げ確保のために仕入れ先や原価を見直すなどして質の低下につながりかねない。いずれにせよ、消費者にとっては、1000円で飲める量がさらに少なくなるか、質が悪くなるかのどちらかの選択肢しかなくなり、ささやかな楽しみが奪われていく。

 外食という消費行動の停滞は、税収全体から見ても決して好ましい姿ではないだろう。政府は複雑なポイント還元やプレミアム商品券の発行など、多くの諸経費をかけて景気対策を行うとしているが、増税に伴う税収の増加と景気対策費用との収支バランスはとれていないように映る。また普及が遅れているマイナンバーの活用で5%還元するなどという驚きの話も飛び出し、世間を混迷の渦に巻き込んでいる。

 消費増税対策というテーマにあれもこれも詰め込み、無理矢理に理解を求めようとするなかで、消費税が持つ本来の役割が議論もされず、見過ごされている気がしてならない。すでに居酒屋業界は、各種ポイントカードを使ったお得なキャンペーンや、期間限定の割引サービスなど盛んに展開しているが、どれも消費者が足を運ぶ動機付けになっているかといえば疑問だ。

 税率が上がって消費が冷え込み、各店が工夫をしなくなることで、外食業界全体の元気がなくなる──という悪循環だけは避けなければならない。
※写真はイメージ(ゲッティイメージズ)
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 かつての外食は、高くてよいもの、そして安くて悪いものの二極化が鮮明だったが、最近は〈高くてよいもの〉、そして〈手ごろな価格でもよいもの〉に消費行動は変遷している。コストパフォーマンスの悪い商品は、消費者は端から選択しなくなったのだ。

 節約を第一に考えれば、安ければ売れると考えがちだが、スーパーでも最初から値段を安く設定した商品は実は売れていない。それより値引きシールのついた「よい商品」を選択する消費者が増えてきている。

 そう考えると、価格に関係なく長く売れ続ける商品をいかに提供できる店かが勝負のカギを握る。いくらメニューのバリエーションが豊富でも「安かろう悪かろう」の商品は選ばれることはない。どこにでもある商品でも、味付けや素材にこだわる。そして、そこにしかない味わいがあるからこそ「選ばれる価値を持つ店舗」となるわけだ。

 増税という逆風にあっても、消費マインドを熱くしてくれる顧客満足度の高い居酒屋や新しい外食業態の登場を期待したい。

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