小野展克(名古屋外国語大学教授)

 2019年10月に予定されている消費増税を止めるための有効な方法は、米中の貿易摩擦がトランプ米大統領の宣言通りに激化することだろう。そういった意味では、米中の貿易摩擦の回避に向けた交渉が決裂することこそが、消費増税をストップさせる決定打となる。

 安倍晋三首相は、これまでも衆参の選挙に絡めて2度も消費増税を延期している。来年は春に統一地方選挙、夏には参院選の投開票を控えている。特に参院選の結果で与党が大幅に議席を減らせば、首相の宿願である憲法改正が遠のくだけでなく、安倍政権は、いよいよレームダック(死に体)に突入することになる。

 それだけに明確な理由があれば、重要な選挙にダメージを与える消費増税は止めたいのが安倍首相の本音だろう。

 「年末に消費増税を前提に組まれた予算案を出したにもかかわらず、閣議決定した後の年明けのタイミングで消費増税が中止になれば、予算の大幅な組み換えが必要で、国会も政府も大混乱になる。それこそ、首相の政治責任が問われる」(財務省幹部)と、財務省は安倍首相が消費増税を止めることをけん制する。

 さらに、17年の衆院選で、安倍首相は消費増税による増収を当て込んで、幼児教育の無償化などに充てると訴えて勝利した経緯を踏まえ、政府内でも「再び先送りすれば公約違反と批判される」との声も上がる。

 こうした反発や政治的、社会的な混乱をはね返すためにも、もっとも分かりやすい理由は「リーマンショック級の経済危機」にほかならないだろう。

 そもそも安倍政権を長期政権化させた最大の要因は、日銀による異次元緩和で実現した円安を起点として生まれた株高と低失業率だろう。森友、加計問題などで世論の逆風にあいながらも、安倍政権が一定の支持率を保っている背景には、株価や雇用環境が好転したことが大きい。
臨時国会の閉会を受け記者会見する安倍晋三首相=2018年12月、首相官邸(代表撮影)
臨時国会の閉会を受け記者会見する安倍晋三首相=2018年12月、首相官邸(代表撮影)
 そうした中で、株価が大きく下落すれば、政権の屋台骨を大きく揺さぶることは間違いない。

 米中の貿易摩擦は、世界経済の最大の不安定要因として着目されている。トランプ米大統領は今年9月、2000億ドルの中国からの輸入品に10%の追加関税を課す中国への制裁第3弾を発動した。

 その後2018年12月1日には、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合に合わせ、米中首脳会談が行われた。この会談の結果、米国が来年1月に予定していた制裁関税の25%引き上げは3月に延期されたものの、「中国の改善策に合意できなければ、関税引き上げを実施する」と宣言している。

 先日、中国通信機器大手ファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟(もう・ばんしゅう)容疑者がカナダで逮捕された事件をみても、米中間の先行きを楽観視するのは難しいだろう。