滑らかなスケーティングに関しては、アイスショーでのあるシーンが印象的だった。一つ前の出演者が終わったあと、次の出演者は暗転した氷上で足慣らしのために滑るのだが、その暗闇の中で滑るシルエットから「とても滑らかなスケーティングだな」と思うスケーターがいて、名前がコールされると紀平だった、ということが何度かあった。

 スケーティングの滑らかさは、芸術面を評価する「演技構成点」の「スケーティング技術」で高得点となるし、全体のスピードやスケート技術全体の質の高さとつながる。実際、GPファイナルのフリーでは、演技構成点の5項目のうち、4項目が10点満点の9点台と、非常に高く評価された。

 技術以外の部分にも、今季の紀平の強さの要因は見られる。

 何よりも、今の彼女は「シニアデビューシーズンの勢い」というものに満ちあふれている。比較的近い年齢の選手たちと和気あいあいとした雰囲気の中で戦ってきたジュニア時代と比べて、シニアになると小さなころからテレビで見てきたトップ選手たちと、シリアスで時にピリピリとした空気の試合に出場することになる。

 そんなシニアデビューシーズンというのはとても緊張するものであり、かつ、失うもののないシーズンでもある。まだシニアでは何の実績もないからこそ、守るものもなく、ただ真っすぐに駆け抜けていける。その真っすぐな清々(すがすが)しいエネルギーを、今の紀平から強く感じるのだ。

 とはいえ、勢いのままにただ駆け抜けているわけではない。昨季、一昨季と経験してきたさまざまな失敗を、全て生かそうという気持ちが彼女にはある。
フィギュアGPファイナル、女子シングルで優勝した紀平梨花のフリー=バンクーバー(共同)
フィギュアGPファイナル、女子シングルで優勝した紀平梨花のフリー=バンクーバー(共同)
 紀平が靴を新調するのは、左足は約2カ月に1回、右足は約半年に1回の頻度だそうだが、大会までに慣らすことを考慮して、大会と靴を新調するタイミングを計算したり、靴に付けるブレード(刃)の位置も試行錯誤を重ねた。また、大会での演技直前は、緊張しすぎてしまわないようにトレーナーなどと話をして笑ったりしてから集中するようにしている。今季の彼女は、これまでの失敗や悔しさを「今季から頑張るために、全部経験しておいたような感じです」と捉えて、自分の糧にしているのだ。