杉江義浩(ジャーナリスト、放送プロデューサー)

 お笑い芸人、とろサーモンの久保田かずのぶさんと、スーパーマラドーナの武智正剛さんが、『M-1グランプリ』(ABC、テレビ朝日系)の審査員である上沼恵美子さんに暴言を吐いたとか、上沼さんがそれを受けて謝罪に応じないとか、本当にどうでもいいくだらないニュースを、マスコミが面白げに取り上げました。2018年のくだらないニュース「ナンバー1」に選びたいくらいです。

 今のこの時期、マスコミが扱わなければならない重要なニュースは、もっと他にあります。中国の国策IT企業の問題や、わが国の自衛隊が空母を配備する問題、水道民営化や外国人労働者の受け入れ問題など、さまざまな重要な法案が与党による強行採決で進められているのが実態です。これら国民が頭を使わなければならないテーマを、マスコミはもっと取り上げるべきだと思います。

 とはいえ、娯楽も国民には必要なもの。芸能界の人々やスポーツ界の人々の言動が、どうしても注目を浴びてしまうだけに、ある意味マスコミの宿命だと言えます。

 多くの人に娯楽や感動を与えてくれる、芸能人やスポーツ選手が、くだらない存在だと言うつもりはありません。彼らもまた生活がかかっていて、一芸に秀で、懸命に技を磨き、競争に勝ち残ったものだけが栄誉と報酬を得られる、厳しい世界に生きているのです。

 それだけにテレビの有名人には自らの言動が、少なからず国民の興味関心の対象になるという自覚が必要です。それらがマスコミで取り扱われるときには、一般人とは違って大きく紙面を使い、長いワイドショーの時間を使って報道されます。

 むろんテレビの有名人の言動が、マスコミで大きく取り扱われるということは、たまには良い意味合いを持つこともあります。今年は元アイドル歌手の女性が起こした、飲酒運転のひき逃げ事件が、一般人より大きく報道されました。

 この事件は、飲酒運転、信号無視、ひき逃げ、という道路交通に関する極めて大きな違反が重なっており、われわれ情報の受け手にとっても、交通ルールの重要性を再認識するきっかけになりました。国民に対して、安全運転に対する注意喚起という、一定の役割を果たしていたと思います。

 それに対して、今回のお笑い芸人による大御所芸能人への暴言トラブルについては大きな意義を感じません。私も長年テレビ番組を作ってきましたが、この程度の話題がなぜ盛り上がるのか、考えれば考えるほど首をひねります。
とろサーモンの久保田かずのぶ=2018年4月、東京・虎ノ門
とろサーモンの久保田かずのぶ=2018年4月、東京・虎ノ門
 ただ、今回の騒動で、「芸人」という極めるべき道のあり方について、ベテランと、未熟な芸人の矜持(きょうじ)の違いがハッキリしたことは間違いありません。そもそも芸能界というものは、落語や歌舞伎などもそうですが、その道を極めた人に敬意を払い、芸を見習い、さらに芸を盗んで一人前になるものです。漫才は、落語や歌舞伎などのように明確な師弟関係がない人も多数いますが、漫才についても「漫才道」という一つの道があるように思います。

 その中で、今回のとろサーモン、久保田さんらの言動は、師弟関係の厳しい芸能界において、「師匠」に暴言を吐き、しかも技を審査される立場でありながら審査員をけなすという、とんでもなく礼儀をわきまえない行為だったというのは一目瞭然です。まさに漫才道を汚したといっても過言ではありません。仮にスポーツで負けた方が、審判のせいにして暴言を吐けば、これほど見苦しいものはないでしょう。