もしかしたら、善意でそういう発言をする人も出てくるかもしれない。しかし、大日本帝国の末期のコミンテルン(国際共産党)の手口を思い出してほしい。「普段は何もしない。組織的、国家的に愚かな振舞いをしているときは、見ているだけで良い。正論が通りそうになったときだけ邪魔すればいい。それが成功すれば、気配を消せばいい」だった。

 そして共産主義者で知られる尾崎秀実は、スパイ容疑で逮捕されるまで、熱狂的な愛国者を装っていた。尾崎の言論に煽(あお)られた大衆は熱狂し、泥沼の支那事変に突き進んでいった。「いったい、何のために戦っているのだ? 何を達成すれば、この事変は終わるのだ?」という当然の疑問の声はかき消された。

 確かに、支那事変の尾崎は過去の話だ。だが、未来のお世継ぎ問題でこれをやらないという保証はどこにもない。お世継ぎ問題より大事なご公務とは何か。お世継ぎ問題は、すべてに優先する最優先事項ではないのか。そういう声がかき消されないなら、日本はとっくに正論が通る世の中になっている。

 そもそも、今上両陛下の場合は、男子がお二人いらっしゃる。おそれ多くも、一身に皇室の存続を背負われることになる悠仁親王殿下の場合とは、事情が異なりすぎる。東宮となられる秋篠宮殿下が、皇太子殿下のご公務をすべてお引継ぎになられたとしよう。将来、悠仁親王殿下が東宮となられるとき、そのすべてを引き継ぐことになるのか。そうなれば、お世継ぎづくりに御専念できなくなるではないか。

 秋篠宮殿下の立太子においてご公務を見直すというのは、極めて重大事だと見なすべきだろう。秋篠宮殿下のご発言を受け、マスコミは「お婿さん問題」に集中しているが、どうでもよろしい。それよりも、はるかに重要な発言を殿下はなされた。

 秋篠宮殿下は「宗教色が強い行事は国費で賄(まかな)うのは適当かどうか。内廷会計で行うべき」との趣旨を仰られた。この発言の後に「大嘗祭(だいじょうさい)は絶対に行うべき。身の丈に合った儀式にすれば。これを宮内庁長官は聞く耳を持たなかった」と続く。

 中には「皇族は黙ってろ」「政府に逆らうな」と言わんばかりの人もいるが、その根拠は何なのか。

 譲位に関する「玉音放送」(なぜかビデオメッセージと称されている)に際し、共産党まで含めて陛下にひれ伏したというのに、一部の保守の輩(やから)だけが陛下に対する罵倒を繰り返した。陛下の慰霊の旅を罵(ののし)る宮司、「天皇は安倍政権の邪魔をするな」とわめいた雑誌編集長…。いつからわが国は、皇室に対して弓を引く人間が保守を名乗るようになったのか。
象徴としてのお務めについての「お気持ち」をビデオメッセージで表明される天皇陛下=2016年8月(宮内庁提供)
象徴としてのお務めについての「お気持ち」をビデオメッセージで表明される天皇陛下=2016年8月(宮内庁提供)
 自称保守が殿下に対し不敬をなすなら、私はその者どもを逆賊と呼ぶ。昔は皇族に対し物申すなど命懸けだったが、日本国憲法のおかげで軽くなったものだ。連中に救いがないのは、自分が誰に操られているかも理解していないことだ。たいていの自称保守、特に「天皇や皇族は黙っていろ」と言っているような安倍応援団は、自分の言っていることが分かっているのか。

 両陛下や皇族は黙っていろというのは、「天皇ロボット説」だからだ。東大教授の宮澤俊義が「天皇は盲判を捺すロボット」と教科書で言い出し(『コンメンタール全訂日本国憲法』74頁。原文ママ)、内閣法制局長官の吉国一郎が政府の有権的解釈にした(昭和50年11月20日参議院内閣委員会答弁)。

 一部の保守が主張する「天皇や皇族は黙っていろ。安倍さんの邪魔をするな」は、いっそ「内閣法制局が決めた日本国憲法の解釈に従え」と言い直してみたらわかりやすい。そのような人は宮澤俊義が言い出した「天皇ロボット説」に洗脳されているのだから。