重村智計(東京通信大教授)

 韓国海軍艦艇が自衛隊哨戒機にレーダーを照射した事件で、韓国政府は大揺れだ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は面子を失った。大統領の許可なしのレーダー照射は、すなわち最高司令官の権威と指揮命令権の否定であり、韓国では「クーデター行為」と受け止められる。韓国国防省は「レーダー照射はしていない」と言い続けるしかないから、嘘の上塗りが続く。

 日本人には理解できないだろうが、今回のレーダー照射は大統領の軍に対する統治能力が否定された極めて衝撃的な事態を招いた。平時に、海軍艦艇の兵士や将校、艦長、もしくは海軍首脳が「照射命令」を出したのであれば、事実上の「クーデター行為」と受け止められる。

 事件が起きたのは、12月20日午後3時ごろ。石川県・能登半島沖で、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した。防衛省が事件を発表したのは、丸1日経過した21日午後のことだった。

 防衛省は、事件の重大さを考え、事実確認を何度も行った。発表された声明でも、韓国側に一定の配慮を見せた。韓国を追い詰めず、「謝罪」の機会を残したのである。

 ところが、韓国側は防衛省発表まで、何もしなかった。自ら起こした事態を明らかにして謝罪すれば済んだ話を、自分で複雑にしたのである。その裏には、韓国軍の混乱と「士気の崩壊」がある。

 韓国国防省は防衛省発表を受け、「正常な作戦活動中レーダーを運用したが、日本の哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない」と述べた。この発表で、国防省は明らかに「レーダーを運用した」と認めていたのに、同日の日本のテレビニュースは「韓国、レーダー照射を否定」と伝えた。明らかな誤報である。
2018年12月、韓国海軍によるレーダー照射に関するに臨む岩屋毅防衛相(川口良介撮影)
2018年12月、韓国海軍によるレーダー照射に関するに臨む岩屋毅防衛相(川口良介撮影)
 歴代大統領は、軍のクーデターを最も警戒した。今や韓国社会が軍のクーデターを受け入れる時代ではないが、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が軍事クーデターで政権を奪取した記憶は、韓国民にとって忘れがたいものがある。

 韓国軍の部隊はクーデター防止のため、ソウル方面への後方移動は禁止されている。また、師団以上の部隊移動には、隣接する全ての師団への通告が義務付けられている。各部隊には「保安担当」の政治将校が配置され、司令官と部隊将校らの動向に目を光らせている。