韓国では、国防省や陸海空の軍参謀総長の要職に、有能で人望ある軍人は決して任命されない。有能でなくても、大統領に忠誠心があることが最大の抜擢条件になる。常に軍のクーデターを警戒しているからだ。

 今回の事件を、韓国が「レーダー照射ではない」と嘘をつく理由がここにある。もし、照射を認めてしまえば、軍による事実上の「クーデター行為」を放置した事になるからだ。そうなれば、文大統領への忠誠心と指揮命令権が否定され、最高司令官としての責任が問われる。しかも、韓国軍の統制力のなさまで世界に知られてしまう。

 日本の世論が、正直に認めて謝れば済む話と思っても、韓国の政治文化では認めるわけにはいかないのだ。軍最高司令官としての大統領の権威と面子は丸潰れで、誰も権力者を恐ろしいと思わなくなる。そうなれば、政権崩壊につながる。

 だから、国防省がレーダー照射について「気象条件がよくなく、遭難した北朝鮮漁船を探すために全てのレーダーを稼働させた」と全く辻褄(つじつま)の合わない説明をすることになる。だが、この説明では誰も納得しないだろう。

 だいたい、韓国海軍艦艇に北朝鮮の漁船救助の任務は与えられていない。北朝鮮からの公式の救助要請もないのに救助活動をしたら、海軍艦艇は事実上、北朝鮮軍の支配下にあることになってしまう。遭難漁船が何十人乗りの大型艇ならともかく、数人の小型漁船だ。ありえない。見え見えの嘘をついてはいけない。

 日本でも韓国でも、漁船の救助は海上警備組織が行い、日本では海上保安庁、韓国は海洋警察庁の任務だ。当たり前だが、海軍艦艇の任務は防衛だ。北朝鮮艦船の侵入を防ぎ、工作船を摘発するのが仕事だ。
11月1日に見つかった北海道寿都町の岩場に漂着した木造船。船体にはハングルの文字も書かれていた(小樽海上保安部提供)
11月1日に見つかった北海道寿都町の岩場に漂着した木造船。船体にはハングルの文字も書かれていた(小樽海上保安部提供)
 北朝鮮政府が漁船の救助を韓国政府に要請していないのに、韓国海軍は自主的に北朝鮮漁船救助を任務にしているのだろうか。百歩譲って、北朝鮮の工作摘発や、北朝鮮タンカーによる石油の「瀬取り」取り締まりなら、まだ納得できる。だが、事件当時は「気象条件が良くなかった」(韓国国防省)というから、海上での瀬取りは不可能だ。

 では、レーダー照射が艦長や艦隊司令官からの命令でないとすれば、いったい誰が命令したのか。一つの可能性として、文大統領側近による「親政クーデター意図」が浮上する。

 文政権の支持率は50%を割り込んだ。政権支持率が40%台にまで落ちたら回復できないことは、韓国では常識だ。「1年後の2019年末にはさらに30%台まで落ち、文政権が崩壊する」との観測がソウルの政界でささやかれ始めている。