片岡亮(ジャーナリスト)

 大みそかの格闘技興行は、テレビ各局が取りそろえる特番と視聴率が競えるコンテンツという色合いが強い。ここでたたき出した視聴率こそ、来年度以降の中継スケジュールや放映権料にも影響するだけに、テレビマンのみならず、興行を主催するプロモーターも視聴率を気にして、必死にマッチメークを進める。

 実のところ、格闘技番組は最近、視聴率が低迷しており、危機感は強い。ただ、ピンチのときこそ思いきった勝負に出るのが、興行師の性(さが)でもある。

 こうした中で、今年はTBSが日本選手初の4階級世界王者を目指す井岡一翔(かずと)の世界タイトル戦をマカオから中継し、フジテレビが総合格闘技イベント「RIZIN(ライジン)」で「ボクシング5階級世界王者vsキックボクシング無敗の神童」をメーンマッチに持ってきた。

 これがコケたら、来年度の大みそか格闘技中継は消滅するかもしれない、というぐらいの賭けに出たのである。

 そもそも、大みそか興行という「博打(ばくち)」を最初に打ったのは、野心家の元プロレスラー、アントニオ猪木だった。1993年にK-1、97年にはPRIDEという格闘技イベントが相次いで立ち上がり、地上波テレビ中継でも好評を博したことで、格闘技ブームが巻き起こった。そんな最中の2000年、猪木がプロレスイベント「INOKI BOM-BA-YE(イノキ・ボンバイエ)」を大みそかに開催し、成功を収める。

 翌年、TBSによる全国ネットの生中継にこぎ着けると、猪木は「ガチンコ」の総合格闘技イベントに衣替えさせた。永田裕志がミルコ・クロコップに、安田忠夫がジェロム・レ・バンナに挑む「プロレスラーvsK-1選手」という構図が当たり、視聴率は14・9%をたたき出し、『NHK紅白歌合戦』に次ぐ2位争いを制した。

 ところが、03年にボンバイエの放映権が日本テレビに移ると、逃げられた格好のTBSがK-1の「Dynamite!(ダイナマイト)」、フジテレビがPRIDE「男祭り」をそれぞれ放送し、三つ巴の大みそか格闘技戦争が勃発(ぼっぱつ)した。
2018年11月、記者会見でポーズをとる4階級制覇を狙う井岡一翔
2018年11月、記者会見でポーズをとる4階級制覇を狙う井岡一翔
 結局、勝利したのは、元横綱の曙とボブ・サップという仰天マッチを放送したTBSで、平均視聴率は19・5%、瞬間最高も43%を記録し、3分間ながら紅白を初めて上回ったのである。

 「これで大みそかの数字を取るには、あの一戦のような『ビックリカード』をやらないといけなくなりました」と振り返るのは当時のTBS関係者の話だ。

 「格闘技団体の方だけじゃなく、テレビマンも話題性のある出場者を探しまわったんです。どこのテレビ局も別ジャンルの格闘家らにあたって続々と契約していった」という。