そして、五輪金メダリストの柔道家、吉田秀彦や石井慧をはじめ、タレントのボビー・オロゴン、俳優の金子賢などが次々に引っ張り出されたが、格闘技ブームも長くは続かなかった。それどころか、PRIDEは暴力団との関係を指摘され、K-1も経営難に陥ったことで、両団体とも消滅の憂き目に合った。

 2010年に「Dynamite!」が終了したTBSは、11年から井岡をメーンにしたボクシング中継をスポーツバラエティーに組み込み、大みそかの格闘番組を続けることになる。一方、テレビ東京もボクシング中継に参戦し、15年にはPRIDEを主催した団体の代表が立ち上げたRIZINをフジテレビが放送した。

 ただ、かつては視聴率15%と健闘していた井岡のタイトルマッチは16年に5・5%まで落ち込み、テレ東もフジも17%超の日テレ『笑ってはいけない』シリーズに遠く及ばなかった。ブームのころは「相乗効果」もあったが、今や視聴率の「食い合い」になってしまったのである。

 17年の大みそかは、井岡の引退表明を受けたTBSが、テレ東と契約していたワタナベジムを「強奪」するという禁断の手を使った。これで「駒」を失ったテレ東はボクシング中継からの撤退を余儀なくされた。ただ、同ジムの世界ライトフライ級王者、田口良一をメーンに据えたTBSの視聴率は5%台にとどまり、総合格闘技とキックボクシング、二つのRIZINトーナメントを中継したフジも4~6%台と伸び悩んだ。

 こうした状況だけに、今年の大みそかは、崖っぷちのRIZINが打った博打が大きな話題を呼んだ。なんとボクシング5階級制覇、50戦無敗のまま引退したフロイド・メイウェザーを起用し、4階級下の無敗キックボクサー、那須川天心と対戦させると発表したのである。

 ただし、試合はボクシング形式だが、決着が付かない3ラウンドのエキシビションマッチ。しかも、主催者は当初、「豪華エキシビション」と言わずに「真剣勝負の果たし合い」だと宣伝していた。この「誇張」一つをとっても、いかに主催側の尻に火が付いた状況だったか分かるだろう。

 各スポーツ紙ではメイウェザーのファイトマネーを「10億円」「15億円」「30億円」と書き立てていたが、そんな予算が現在の年末興行にあるわけがない。高視聴率が見込めるフィギュアスケート中継でさえ、放映権料は5千万円程度である。観戦チケット収入を単価と席数で計算してみても、興行収益は最大3億円程度であり、格闘界のギャラ相場を全く知らないとしか思えない。

 多数の出場者報酬と興行経費を差し引いてみれば、その規模はたかが知れている。明らかに金儲(もう)けのためにやっているショーイベントなのに、大赤字覚悟で何十億円も払えるわけがないのである。

 しかも、試合の出場交渉をする上で、ビッグイベントは選手に足元を見られやすい。特に、大みそかの場合は、人気の高い外国人選手がクリスマスから年始までバカンスしていることが多い。そのため、スケジュールこそ空いていても、相場より高いファイトマネーを要求してくる。格闘技ブームのころのように、放映権料が高い時代であれば支払えたが、予算規模が縮小した現在ではそれも難しい。
2018年11月、記者会見するフロイド・メイウェザー
2018年11月、記者会見するフロイド・メイウェザー
 そう考えれば、超大物メイウェザーはあくまで「エキシビション」だからこそ出場を承諾したのであり、報酬も「公開スパーリング程度にしては割高」な程度だと分かる。彼が米国で過去に1試合で100億円単位のファイトマネーを手にしてきたのは、視聴ごとに課金されるテレビのPPV(ペイ・パー・ビュー)が単価1万円であっても購入が殺到するほどのコンテンツだったからだ。儲かるビジネスモデルがあってこそ高額報酬は発生する。

 では、なぜメイウェザーがそこまで稼ぐことができたのかといえば、彼の言動が世間を強く引きつけるものだったからだ。時に対戦相手を口汚く挑発し、時にはファンを焦らす。メイウェザーは名言を連発することで、試合の価値を異様に高めるのが上手だ。