島田裕巳(宗教学者)

 平成の時代は、さまざまな点で「宗教の時代」であった。日本ということでは、まずオウム真理教のことが挙げられる。

 オウム真理教が宗教法人として認証されたのは1989年のことで、この年、週刊誌による糾弾キャンペーンを通して、その存在が一般にも知られるようになった。坂本堤(つつみ)弁護士一家の事件が起こったのも、この年だった。

 そしてオウムは、松本サリン事件と地下鉄サリン事件を起こし、それに関与した教祖をはじめ幹部の信者たちが逮捕され、死刑判決を受けた。死刑が執行されたのは、平成の終わりが見えた2018年7月のことである。

 オウムは平成の始まりとともに登場し、平成の終わりに、彼らが引き起こした事件の決着がついた。オウム真理教が誕生したとき、日本はバブル経済の真っ只中にあった。その時期、オウムだけではなく、幸福の科学も注目され、宗教に近い自己啓発セミナーが流行した。

 結局は教祖が詐欺罪で逮捕された「法の華三法行」の信者たちが、街頭で「最高ですか!」と叫んでいたのも、この時期である。渋谷の駅前では、「あなたのために祈らせてください」と言って、手かざしをする人々もいた。「神慈秀明会」という、やはり新宗教の信者たちだった。

 バブルの華やかな時代には「金だけが全て」という風潮が生まれ、世間は浮き立っていた。その中で、時代の波にうまく乗れない人間や、そうした時代風潮に反発する人間たちが生まれ、彼らは宗教やそれに近い試みに救いを求めた。
1995年9月、移送される松本智津夫死刑囚(教祖名・麻原彰晃)。事件の真相を語ることなく死刑が執行された
1995年9月、移送される松本智津夫死刑囚(教祖名・麻原彰晃)。事件の真相を語ることなく死刑が執行された
 しかし、オウムによる地下鉄サリン事件を契機に、宗教に対する不信感が募り、そうした動きは一気に沈静化する。バブル経済を背景にした宗教の時代が過ぎ去ってみると、そこに現れたのは、宗教の衰退という現象だった。