酒井政人(スポーツライター)

 正月の箱根路を走る学生ランナーたちはキラキラと輝いている。それはいつの時代も変わらない。一言で言えば「美しい」のだ。研ぎ澄まされた肉体と若さ。彼らの汗と涙。それに笑顔。全てがまぶしく感じられる。「青春」という甘美な言葉も、彼らの継走を表現するには物足りない。
 
 だからこそ、多くの人を魅了してやまない。約11時間ものドラマは、今や驚異的な視聴率を稼ぎ出す一大コンテンツになった。しかしながら、筆者はそこに違和感を持たないわけではない。憧れの舞台として眺めた箱根駅伝、本気で目指していた箱根駅伝、その後スポーツライターとして取材を重ねてきた箱根駅伝。その姿は少しずつ変わっているからだ。

 箱根駅伝は、関東学生陸上競技連盟が主催しており、「学生主体」で発展してきた。しかし、それは建前であって、箱根駅伝にまつわる「利権」を握っているのは紛れもなく大人たちだ。2018年はスポーツ界の問題がいくつも噴出した。学生長距離界も例外ではない。暴行、パワハラ、金銭問題。これらの元凶の大半は指導者だった。

 箱根駅伝は誰のものなのか。主役は選手であって、指導者は彼らをサポートする存在のはずだ。だが、逆に選手たちを利用して、甘い汁を吸おうとする輩がいるのも事実である。

 その美しくない姿を見るたびに、やるせない気持ちになるのは筆者だけではないだろう。箱根駅伝は学生ランナーたちの夢や目標であって、「絆の物語」だと思っている。いや、そうあってほしい、という願望はあるが、かつての美しい光景は少しずつ汚れている。

 箱根駅伝が世間の注目を集めるビッグイベントになったことで、多くの大学が本格強化を始めた。実業団などで活躍した「プロ監督」を招聘して、強化資金もどんどんつぎ込んでいくようになった。
第95回箱根駅伝、一斉にスタートする各校の1区走者=2019年1月2日、東京・大手町(萩原悠久人撮影)
第95回箱根駅伝、一斉にスタートする各校の1区走者=2019年1月2日、東京・大手町(萩原悠久人撮影)
 その結果、有望な高校生ランナーのスカウト合戦が過熱した。大学の魅力や指導理念、過去のキャリアを伝えて選手勧誘を行うのであればいいが、マネーゲームとなる場合もある。授業料免除はもちろん、中には大卒の初任給を超えるような「奨学金」を受け取っている選手もいる。

 箱根駅伝で少し活躍したぐらいで、「国民的ヒーロー」に祭り上げられてしまうのも問題だろう。不思議なことに、陸上競技の日本選手権よりも、関東学生のローカル大会である箱根駅伝の方が、メディアの取材は殺到する。しかも、大会が始まるずっと前から、「箱根取材」は始まっている。