宗茂(旭化成陸上部顧問)

 今や陸上界の花形と言われる箱根駅伝ですが、われわれの時代にはまだそれほど注目されていませんでしたし、大分県で生まれ育った私にとって関心のある大会ではありませんでした。

 私も含め、当時は高卒で実業団に入る長距離選手が多かったのですが、今では強い選手はほとんど箱根駅伝を目指し、関東の大学に進学するようになりました。

 オリンピックのマラソンで日本人がメダルを獲れない原因として、箱根駅伝の弊害が指摘されることがあります。しかし、箱根駅伝があるからこそ、長距離の競技人口が多いという点は忘れてはならないでしょう。ただ、本当に世界を狙える選手がそこで終わってしまっては困るのです。

 サッカー少年に「君たちは何を目指すの?」と聞くと、「ワールドカップ」と答えるのに、全国トップクラスの長距離選手に同じ質問をすると、「箱根駅伝」と返ってくる。そんな時、私はいつも「なぜ君たちのような強い選手の目標が箱根駅伝なんだ?」と思うわけです。箱根はあくまでも通過点であって、その先の世界を見据えた上での箱根駅伝なんだということをいかに教えるか、それが日本のマラソン強化を考える上で重要になってくると思います。

 そもそも箱根駅伝は世界に通用するランナーを育成する目的で大正9年に誕生しました。昭和62年に日本テレビが生中継を始めたことで一気に人気が高まり、いまや平均視聴率25%を超える、「化け物」的な番組になりました。

 ある時、テレビ中継を見た人が「今年の箱根駅伝は面白くなかった」と言うので理由を尋ねると、「途中でふらふらする選手がいなかった」と答えるのです。ふらふらして、倒れて、云々といった選手のアクシデント、そこから生まれるドラマを見るのが、一つの醍醐味(だいごみ)になってしまっている。だから私はよく「箱根駅伝物語」と呼んでいます。
ふらつきながらフィニッシュする選手=2015年1月 2日、芦ノ湖(撮影・桐山弘)
ふらつきながらフィニッシュする選手=2015年1月2日、芦ノ湖(撮影・桐山弘)
 私とすれば、ふらふらしている選手を画面に映してほしくないですね。そういったものは映さないで、レースを追いかけてほしい。ふらふらしている選手に脚光が浴びてはいけないという考えです。しかし、テレビ局はそれを映すことによって、視聴率を上げるという部分もあるでしょう。スポーツというよりも、ドラマ化しているのが箱根駅伝中継なのです。