他方でいいことばかりでもない。関税同盟に入っていない国との貿易は、関税の存在が障害になり、それによって貿易利益を失うことになる。

 この効果を「貿易転換効果」という。カナダを代表した経済学者であり、経済思想史の研究でも著名なジェイコブ・ヴァイナーが提起した考え方である。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)のような自律性の大きな経済圏の貿易効果を総合的に考えるときには、この貿易創出効果と貿易転換効果の二つを合わせて考える。

 浜田氏の分析は、トランプ政権の対中貿易戦争を一つの関税同盟、つまり、先のWSJ論説と同様に排他的側面の強い二大経済圏の創出とみなしている。浜田氏は、米中貿易戦争自体が、今後それが本格化するほどに両国の貿易にマイナスの影響をもたらすことは疑いない、と指摘している。典型的な貿易転換効果が生じるわけである。

 最新の貿易統計を見る限り、米中には貿易転換効果が次第に顕在化している。昨夏以降、米中貿易は大きく停滞し始めている。ただし、この動きが今後も続くかは、まだ様子見の段階だ。浜田氏はむしろ、日本や欧州、韓国など米中貿易戦争の「部外者」が、プラスの貿易転換効果を得ている可能性を指摘している。このプラスの貿易転換効果とは、米中の関税引き上げによって、「関税同盟」の当事者とはいえない日本や韓国、欧州諸国が対中貿易で利益を得ることを意味する。

 浜田氏は、2017年4月から2018年3月にかけて、日本の対中輸出が18・3%も拡大したと指摘した。いわば日本は米中貿易戦争で漁夫の利を得た形となる。これは米国中心の「関税同盟」に入っていないために生じた利益だ。

 だが、冒頭で指摘したように、今回の米中貿易戦争は単なる経済的抗争ではない。むしろ、メーンテーマは民主主義的価値観や安全保障である。そのため「ファーウェイ包囲網」でも明らかなように、米中貿易戦争が長期化すれば、日本や欧州も米国の「関税同盟」に加わることで、この漁夫の利(プラスの貿易転換効果)を失うであろう。

 そして、韓国の動向にも注意が必要だ。北朝鮮に融和的な姿勢を文在寅(ムン・ジェイン)政権が一貫して採用している。北朝鮮に対する経済制裁の解除や経済交流の拡大に積極的なのは明らかだ。北朝鮮はおよそ民主主義的価値観に遠い。
2018年12月、ソウルの韓国大統領府前にある広場で作成中の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が握手する絵(共同)
2018年12月、ソウルの韓国大統領府前にある広場で作成中の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が握手する絵(共同)
 対して、最近の「徴用工」判決問題、そして昨年末から続くレーダー照射問題の経緯を見ても分かるように、日本に対しては一貫した「謝罪」を要求するだけの国家といっていい。特に、レーダー照射問題は、下がり続ける文政権への支持率が背景にあるのかもしれない。