これに対し、日本政府は翌日、韓国政府に抗議したが、韓国は前述の通り「P1哨戒機の追跡が目的ではなく、遭難した北朝鮮船捜索のため」と説明した。だが、繰り返すが捜索のためなら捜索用レーダーを使用するはずであり、捜索用と射撃用の電波の違いは明確であって、間違えようもない。

 そもそも、現場は能登半島沖であり、日本領海にほど近い。ここに外国の軍艦が出没すれば自衛隊機が状況を確認しに来るのは分かり切った話であろう。そして自衛隊機なら射撃用レーダーを照射しても反撃しないこともよく知っている。

 相手が中国機であれば直ちに反撃するかもしれず、それを知っていればこそ、中国軍に対し絶対にこんなことはしない。しかし、専守防衛を原則とする自衛隊は、危険を感じても反撃せずに現場から逃走するだけだからだ。

 韓国側の反論が理にかなわない点をもう少し見てみよう。昨年末に防衛省が公開した映像を見ると、当時、駆逐艦の近くには韓国の警備救難艦がおり、さらにその近くには北朝鮮の漁船がいた。従って「遭難した北朝鮮船捜索のため」その海域にいたのは事実だろう。だが、駆逐艦は海軍の所属であり、警備救難艦は海洋警察の所属である。

 所属の異なる二つの艦が共同で行動していたことになるが、所属が違う以上、指揮系統が異なるため通常、共同で作戦行動はしない。海難救助の場合は例外で、国際法により救助の義務が定められているからだ。

 従って海軍と海洋警察が共同して海難救助に当たることはあり得るのだが、北朝鮮船は救助信号を出していない。もし出していれば、現場は日本の排他的経済水域(EEZ)のため、海上自衛隊も海上保安庁も救助活動に参加したはずだ。つまり、北朝鮮船が救助信号を出していない以上、海難救助に該当しない。
2018年4月、軍事境界線近くを散策中にベンチに座り、話をする韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国共同写真記者団・共同)
2018年4月、軍事境界線近くを散策中にベンチに座り、話をする韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国共同写真記者団・共同)
 海難救助でもないのに海軍と海洋警察に共同で活動するように、命令できるのは韓国では指揮系統上、大統領しかいない。つまり、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「遭難した北朝鮮船を捜索せよ」と命令したのだ。当然、北朝鮮の要請を受けてのことだろうが、北朝鮮船が救助信号を出していないのだから、要請は北朝鮮本国から韓国の大統領に極秘に発せられたとしか考えられない。

 そしてこんな要請をできる人物は、北朝鮮のトップである金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長しかいない。だが、遭難した北朝鮮の漁船は山ほどあり、日本にもたくさん漂着している。金委員長がそんな漁船の捜索をいちいち韓国の大統領に依頼するわけはない。