田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 10日に行われた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の年頭会見に関する報道に接したとき、筆者は驚きを禁じ得なかった。いわゆる徴用工問題をめぐり、「日本は不満があってもどうしようもない」との理由で、日本に歴史を考慮し、慎重な姿勢を要求したからである。

 文大統領の日本への言及はごく一部分であった。そこで、識者の中には、文政権は日本を中国や米国ほどには重視していない、今回の徴用工問題もそれほど重視していないので、日本の一部の人たちのように徴用工問題やレーダー照射問題に過剰に反応するのはおかしい、という論調を展開する人もいた。だが、果たしてそのような見方は妥当だろうか。

 そもそも、徴用工問題は日韓という国家同士の国際的な取り決めである。韓国も日本と同様に三権分立だが、国際的な交渉においては、もちろん三権それぞれと外国が交渉する必要はない。司法の判断で、行政府の国際的な取り決めとは違う帰結をもたらしてしまえば、まずは韓国内で調整すべき話である。

 だが、文政権にはそのような動きはほとんど見られない。日本を軽視しているとするならば、もちろんそれで日本が「過剰」反応を抑制する理由にはならない。むしろ、事態は逆で、文政権に対しては厳しくその国際的責任を追及するのが、いちいち国際法などを持ち出さなくても明らかな物事の理(ことわり)である。

 しかも、文大統領の会見では、事実上「日本国民に『歴史』を反省して、この事態に甘んじろ」という、他国民をあたかも自分たちの「奴隷」のように扱う姿勢を鮮明にしていた。植民地としての歴史が韓国民のプライドとアイデンティティーを傷つけた過去の経緯は不幸な出来事だろう。だが他方で、「歴史」を根拠にして「反省」を迫られている現代の日本人の大多数は、植民地支配にもいかなる戦争にも、そして韓国が現在直面している半島の分断にもいささかも関係していない。

 確かに、日韓の過去の不幸な歴史を知ることは必要だろう。だが、その「歴史」を基にして、現在の日韓に横たわる問題にも「反省」を求め、「自制せよ」というのは、単に「歴史」を利用して、他国民を自国の精神的従者にでもしたいだけではないか。

 言い方を換えると、韓国は日本との揉め事が起きるたびに、「歴史」を政治利用しているだけなのである。その根底には、日本を韓国の都合のいい言い訳として利用しているのだろう。
2019年1月、ソウルの韓国大統領府で年頭記者会見する文在寅大統領(共同)
2019年1月、ソウルの韓国大統領府で年頭記者会見する文在寅大統領(共同)
 ただ、韓国の外交は、日本を本当に軽視しているからこのような不当なものになるかは、慎重に考察する必要がある。実際には、文政権の外交政策というのは、他国の責任を常に要求する「他国責任論」とでも言うべきものではないだろうか。

 例えば、最近の報道によれば、韓国は中国との間でも紛争事案が発生している。韓国の首都圏では、微小粒子状物質「PM2・5」による大気汚染が今までになく悪化したという。