舛添要一(前東京都知事)

 2020年東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑で、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長がフランス当局の捜査対象となっていることが判明した。具体的には、竹田氏が理事長を務めた五輪招致委員会が、シンガポールのコンサルタント会社「ブラックタイディングス(BT)」に計180万ユーロ(約2億3千万円)を支払ったという点について、昨年12月にフランス当局が竹田氏に事情聴取を行ったという。

 フランス当局は、BTのイアン・タン代表が、国際陸上競技連盟(IAAF)のラミン・ディアク前会長の息子、パパマッサタ・ディアク氏と関係が深く、招致委が支払ったコンサルティング料は、東京開催に向けた票の取りまとめのためのディアク氏親子への賄賂だったのではないかという疑いを持っている。ディアク前会長は2013年まで国際オリンピック委員会(IOC)の委員も務めていたし、息子のパパマッサタ氏もIAAFコンサルタントで、五輪招致には大きな影響力を発揮できる立場にあった。

 大きな捜査権限を有する予審判事が手続きを始めたということは、重大な事件であることを意味し、ほぼ公判に向かうということを予想せざるを得ない。

 都知事在任中、私は東京五輪の準備のために多くのIOC委員と会ったが、金銭感覚も雰囲気もそれまで私の経験したことのないものだった。また、過去の招致についてさまざまな黒い噂も聞いたが、このディアク氏親子についてもそうである。最近は随分改善されたと思うが、今でもさまざまな疑惑が話題に上ることがある。

 予審判事による今回の贈収賄疑惑の捜査について、竹田氏は15日午前に会見を行い、「コンサルタント契約に基づいた正当な対価だ」と従来の主張を繰り返した。ところが、会見は約7分間で終わり、「フランス当局が調査中の案件のため」との理由で質疑には応じなかったため、詰めかけた内外のマスコミの不興を買った。

 そもそも、この「事件」については3年前に話題になり、国会でも取り上げられたが、JOCの調査チームは2016年9月に、日本の法律やフランスの刑法、IOCの倫理規定に違反しないと結論づけている。日本ではこの問題が解決済みと認識されていたのであり、今になって再浮上したことは驚きをもって受け止められたようだ。

 そこで、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の逮捕劇と何らかの関係があるのではないか、「フランス側の報復か」「ゴーンと竹田の取引か」「意趣返し」だといった臆測が内外で流れている。そのような臆測を呼んだのは、二つの「事件」の展開のタイミングが絶妙だからである。私もその「偶然の一致」には驚いた。
2018年1月、2020年東京五輪誘致を巡る贈収賄事件に関する会見に臨む日本オリンピック委員会の竹田恒和会長(川口良介撮影)
2018年1月、2020年東京五輪誘致を巡る贈収賄事件に関する会見に臨む日本オリンピック委員会の竹田恒和会長(川口良介撮影)
 まず、ゴーン被告が逮捕されたのが昨年11月19日で、フランス当局が竹田氏を聴取したのが12月である。年が明けた1月11日に、東京地検がゴーン被告を追起訴し、弁護人は保釈を請求した。この日、フランス紙ルモンドは、フランス当局が竹田氏を捜査対象にすることを報じたのである。

 この流れを見ると、これ以上ゴーン被告の勾留を続けるならば、フランスは竹田氏を標的にするというメッセージだと思わざるを得ない。あまりにもタイミングが合いすぎる。日産の親会社であるルノーの筆頭株主はフランス政府であり、百戦錬磨の外交巧者であることはよく知られている。