まるで、何者かが「軽率なアイドルが勝手に騒いだだけ」という筋書きで事態を収束させたいように見えてしまいます。被害者が一方的に傷つけられる展開に、国内外で批判と疑問の声が後を絶たない状況になりました。この謝罪で運営側が幕引きを図ったのであれば、逆効果でした。

 山口さんが謝罪した公演終了後に、ようやく運営側からのコメントが発表されます。そのメッセージでは、メンバーが関わっていたことを認めつつも、違法行為がなかったことを強調し、防犯ベルを持たせるという再発防止策も併せて発表されました。

 しかし、今回の事件は防犯ベルで防げるものではなく、運営側が責任ある態度を示さなければ、再発防止につながらないことは誰の目にも明らかです。暴行事件に関与したメンバーには違法行為はなかったものの、事件を誘発する行為があったことは疑いないからです。

 当たり前の話ですが、違法でなければ何をやっても良いわけではありません。本来であれば、メンバーへの厳しい指導や教育的処分など、管理監督者としての責任ある対応が必要です。しかし、コメントや発表タイミングからはそのような態度が見えず、運営側の「危機管理」意識の低さに、さらに批判のボルテージが上がってしまいました。幕引きを狙ったとしたら、またもや逆効果に終わっています。

 ここまでの展開を見る限り、「何事もなかったように収めたい」という運営側の意図が見えてきます。もしかしたら、本当に「何事もなかった」と思っていたのかもしれません。

 このことは、山口さんの告発の中でわかるように、彼女自身も実感し、危惧していました。仮に、山口さんの危惧が本当であったとしたら、運営側は、危機管理のための防災心理学で言われる「恒常性錯覚」という心理に陥っていたといえるでしょう。

2019年1月、取材に応じるAKSの
松村匠・運営責任者(左)とNGT48劇場の早川麻依子新支配人
 恒常性錯覚とは、危険な状況に陥っているにもかかわらず、自分の日常(恒常)が失われる事態になることを否認して、何事もなかったかのように振る舞おうとする心理です。私たちの日常は、私たちが日々の努力を重ねて全力で築き上げたもので、とても大切なものです。

 それが失われることを考えると、心の痛みに襲われます。私たちは心の痛みを無意識に避ける心の仕組みを持っているので、かえって危険を拡大してしまう心理に陥るのです。

 山口さんが巻き込まれた事件は、運営側にとっては想定の範囲外だったことでしょう。したがって、考えられないような出来事に映ったと察することができます。その意味では、運営側も大変気の毒であり、恒常性錯覚に陥るのもやむを得ない面もあります。実際、恒常性錯覚の影響で、台風や地震といった自然災害でも、被害が拡大しやすいといわれています。