しかし、組織の管理・監督責任者は組織を守るのが仕事です。絶対に恒常性錯覚に陥ってはいけない立場にあるのです。

 ただ、時に責任者としての自覚が足りず、恒常性錯覚に陥ってしまうこともあります。責任者(支配人)は交代しましたが、他のグループ運営から異動した新支配人も、突然のことで当事者意識がまだ希薄なのかもしれません。対応を見ていると、前支配人だけでなく、全ての運営側の人間が恒常性錯覚に陥っているかのようです。

 このことは、全国の管理・監督者にとっても、このたびの展開がいい教訓になるといえるでしょう。「人は本能的に苦痛を避けてしまうものなので、恒常性錯覚が起こり得る」という認識の下で、日々の業務と向き合う必要があります。

 それでは「危機管理」という意味で、運営側はどのように対応すべきだったのでしょうか。まずは、山口さんを会員制交流サイト(SNS)などで告発する事態に追い込まないことが重要でした。確かに、刑事事件にはなりにくい事件でしたので、被害者が運営側の恒常性錯覚に「協力」する形で沈黙していれば「何事もなかった」とできる可能性はありました。

 しかし、これは考えてはいけないことです。被害者の人権を無視する行為で、さらに傷つけてしまうだけです。被害者は既に日常を壊されてしまっているのです。被害者が日常を取り戻せるように、一丸となって事に対応する態度こそ必要でした。

 次に真相を把握して、加害者や関与したメンバー、そしてマスコミにどのように対応すべきか、山口さんと話し合うべきでした。ここで運営側の恒常性錯覚に協力するように強いる態度があってはいけません。あくまでも被害者の感情を最優先していれば、今回の事態は起こらなかったでしょう。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 運営側にはぜひとも世間が納得する対応をお願いしたいところですが、もう一つお願いしたいことがあります。

 この件における被害者は、山口さんだけでなく、ある意味では私たち日本人の全てだといえるかもしれません。暴行事件の被害者である山口さんが謝罪し、加害者である男性たちは「山口さんと話したいだけだった」という供述で釈放されました。あまりにも公平さを欠く顛末(てんまつ)であり、残念極まりないものでした。

 そのため、海外からも日本の女性の人権意識を疑う声が寄せられています。運営側は、NGTをはじめAKB48グループの今後の活躍を通して、メンバーを大切に扱う姿勢を国内外に強く示して、この件で傷ついた日本人の名誉を取り戻してほしいと思います。