2019年01月22日 12:29 公開

イギリスのテリーザ・メイ首相は21日、英下院で欧州連合(EU)離脱協定の代替案を発表した。元の離脱協定で在英EU市民がブレグジット(イギリスのEU離脱)後に在住権を継続させるための費用を撤廃したほか、英・北アイルランドとアイルランド国境をめぐる「バックストップ(防御策)」についても変更を模索していると述べた。

一方で、多くの議員が反発している合意なしブレグジットの可能性を排除せず、議員の支持が高まっている2度目の国民投票についても、イギリスの「社会的な結束」が脅威にさらされると警告した。

メイ首相は昨年11月にEUと離脱協定を取りまとめたが、イギリス議会は今年に入ってこれを230票の大差で否決。3月29日の離脱日を目前に、先行き不透明感が高まっている。

下院では29日に代替案の採決を行う予定だが、メイ首相は変更点の詳細をほとんど明らかにしなかった。

こうした中、協定に反対する議員らは離脱協定以外の選択肢を押し通すため、メイ首相の代替案に対する修正案を議会に提出する予定。どの修正案を投票にかけるかは、ジョン・バーコウ下院議長が判断する。

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メイ首相は、閣外協力している北アイルランドの民主統一党(DUP)などの意見をバックストップに盛り込むことを約束した。

その上で、「こうした協議の結果をEUに提示する」と話した。

メイ首相は、バックストップの「変化」の可能性を模索することで過半数の議員の支持を確保できると述べ、バックストップが半永久的に続き、イギリスの融合を脅かす可能性があることを懸念した。

バックストップは、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。離脱協定で定められているブレグジット後の移行期間が終わる2020年12月までに別の解決策が見つけられなかった場合、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールに従うと定めている。

しかし北アイルランドがそれ以外のイギリス各地と別扱いになることが問題視されており、多くの保守党議員とDUPは強く反対している。

また、バックストップが発動すると実質的にイギリス全体がEU関税同盟にとどまることや、イギリスとEU双方の合意がないとバックストップから離脱できないことなども批判されている。

「柔軟なアプローチ」を約束

メイ首相はまた、最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首が、代替案協議に参加しなかったことを強く批判した。

一方で、離脱協定が承認された暁には、「柔軟でオープンで包括的な」アプローチを取り、下院議員に加え、スコットランドとウェールズの自治政府と関わりながらEUとの将来の関係を交渉していくと約束した。

これに対し労働党のイヴェット・クーパー議員は、なぜ現段階で議員の意見を取り入れないのかと反発した。

「首相はなぜ、関税同盟など自分の協定の重要点を議会で投票にかけないのか。そうでなければ首相の言葉を信じられない」

協定に反対している保守党のサラ・ウォラストン議員はツイッターで、「まるで先週の投票がなかったことにされている」と批判した。

2度目の国民投票は拒否

メイ首相は議会で、「我々の義務は、最初の国民投票での決定を実現することだ」と強調した。

「2度目の国民投票は、この国が国民投票をどのように扱うかという問題に大きな影響を与える難しい前例を作りだしてしまうと懸念している。さらに、イギリスを分裂させようとしている人々の力を強めてしまう」

さらに、「再び国民投票を行うなら、ブレグジット手続きを発動したリスボン条約50条の期間延長が必要となり、次に欧州議会が開会する5月まで待たなくてはならないだろう」と述べた。

「また、2度目の国民投票によって民主主義への信頼を損なわれた結果、社会的な結束にどのようなダメージがあるかが、十分に認識されていないように思う」

一方、2度目の国民投票を支持する議員らは、メイ首相の実質的な右腕とされるデイヴィッド・リディングトン内閣府担当相と「建設的な」協議を行ったと述べている。

このほか、メイ首相が議会で明らかにした内容は以下の通り。

  • ブレグジット後のイギリスとEUの将来の関係性についての交渉に、イギリス議会は「正当な発言権」を持つ
  • 政府は機密委員会を設置し、議会が常にブレグジットに関する最新情報を得られるようにする
  • 下院はブレグジット後、特にEUによる半年に1回の審査の前に、移行期間中の進捗(しんちょく)状況の報告を「定期的」受ける
  • メイ首相は複数の業界や市民社会、労働組合とも「さらに緊密な」接触をはかっていく
  • 労働者の権利や環境水準が「侵食」されないという確証を議会に与える

協定反対派の反応は?

労働党のコービン党首は、「実現不可能な」協定に反対する議員の規模をメイ首相が「まったく無視」していると批判した。

その上で、メイ首相が合意なしブレグジットという「大惨事」の可能性を排除するなら、労働党は29日の投票で協定支持に回ると述べた。

コービン党首は解散総選挙を経て政権を奪還し、EUとあらためて離脱交渉を進めたい考え。交渉ではEUと永続的な関税同盟を結ぶほか、EU単一市場とも強いつながりを持ち、労働者の権利や環境水準の保護を保証する内容の合意を得たいとしている。

労働党は21日、29日の採決の選択肢に欧州とのより強いつながりを含めるよう求める修正案を提出した。ここでもEUとの永続的な関税同盟が言及されていた。また、2度目の国民投票案も排除しなかった。

労働党のヒラリー・ベン議員はこれとは別に、議会はメイ首相の代替案のほかに合意なしブレグジット、EUとの再交渉、2度目の国民投票の計4つの選択肢で採決を行うべきだとする修正案を提出した。

このほか、レイチェル・リーヴス労働党議員は、合意なしブレグジットを阻止する修正案を、イヴェット・クーパー議員はEU法50条の期間延長を求める修正案をそれぞれ発表した。

野党議員による法案提出は認められているものの、審議日程を決めるのは通常は政府なため、野党法案の審議時間はかなり限られることが多い。

しかし議員らは今回、こうした慣習を退け、合意なしブレグジットを阻止する法案の審議と投票に十分な時間を取るよう求めている。

(英語記事 May axes Brexit fee for EU citizens