マクドナルドやケンタッキー、スターバックスに群がり、ハリウッド映画を何より好む彼ら、彼女らに向かって、「アップルやマイクロソフトの製品を使うのは愛国主義に欠ける」などと言おうものなら、皆しかめっ面をするに違いない。愛国心は人一倍あったとしても、かつての激情タイプの人間は既に廃れ、どこかに余裕が生まれている。ここ数年の間に、少しずつそんな変化が生じているのである。

 昨年11月末の出来事だが、イタリアの高級ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」が、上海で予定していたイベントのPR動画を流した。ところが、到底高級ブランドとは思えない、中国の箸文化を茶化すだけの出来の悪い内容だった。中国のネット世論が非難を浴びせると、今度は同ブランドのデザイナー、ガッバーナ氏がインスタグラムで中国人を蔑(さげす)む下品な差別発言を重ねた。

 D&Gの低俗さが露見し、さすがにブランド好きの中国人セレブたちも愛想を尽かした。中国人タレントが相次ぎD&Gとの決別を宣言し、ネットショッピングでも同ブランドは姿を消した。

 さらに、本国ミラノのD&G店舗で中国人によるデモが起きたとのニュースが流れたことで、私は、中国でもショーウインドーのガラスが割られるぐらいの事件は起きるだろうと予想した。なにしろ、株が暴落しただけで、証券会社が投石を受けるお国柄なのだ。

 だが結局、D&G叩きはネットの土俵に留まり、破壊活動など「場外乱闘」には発展しなかった。

 中国の台頭や海外進出に伴い、各国との摩擦もしばしば起きている。9月にはスウェーデンの首都ストックホルムで、警官にホテルから排除された中国人観光客が過剰に反応し、国内の民族感情を刺激して外交問題に発展したばかりだ。中国人に対する偏見や差別的行為は全て「辱華事件」とレッテルを貼られ、たちどころに炎上するほど、中国のネット世論はデリケートになっている。

 だが、よくよく考えれば、かつてのような過激な行動が見られないことに気づく。むしろ、現地のルールを守らない、中国人観光客の身勝手な振る舞いを反省する声が少なくない。悪意に満ちた一部の中国メディアがいくら民族感情を刺激しようと、それをストップさせる冷めた目が育っている。
2018年11月、中国上海市の商業施設内にある「ドルチェ&ガッバーナ」の店舗(共同)
2018年11月、中国上海市の商業施設内にある「ドルチェ&ガッバーナ」の店舗(共同)
 背景として指摘できるのは、中国が名実ともに米国に伍(ご)すことのできる唯一の大国として成長した自信である。国内に深刻な難題を抱えながらも、国内総生産(GDP)だけを比較すれば、中国はすでに日本の約3倍に達している。日本はもはや対抗や抵抗すべき羨望(せんぼう)の先進国ではなく、すでに対等の、あるいは乗り越えた周辺国の一つにすぎなくなった。たとえそれが幻想であっても、心理的効果は十分だ。

 侵略を受けて半植民地となった弱小国から抜け出し、ようやく自力で世界と渡り合えるようになった。国家指導者がしばしば口にし、ネットの流行語にまでノミネートされたのは、国際戦略のキャッチフレーズ「運命共同体」である。簡単に言えば、「金持ちケンカせず」の域に達したということになる。