佐野正弘(ITライター)

 中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に関する動向が、日本でも大きな注目を集めている。発端となったのは、昨年12月にファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏がカナダで拘束されたことだ。報道によると、米国が制裁を科しているイランとの取引に、孟氏が関与したというのがその理由とされており、拘束は米国の要請によるものだという。今年に入って、米国がカナダ政府に対し、孟氏の身柄引き渡しを正式に要請する方針を伝えたと報じられている。

 その影響は米国の同盟国である日本にも飛び火したようで、米国の要請を受ける形でファーウェイなど中国企業の製品を政府調達から排除する方針を固めたと報じられている。2018年12月10日、政府は「IT調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ」を打ち出した。その中に具体的な企業名は記されていないものの、これがファーウェイや中興通訊(ZTE)など中国の通信機器メーカーに対するセキュリティー上の懸念を念頭に置いた内容とみられている。

 さらに、携帯電話大手3社も携帯基地局などのネットワーク設備から今後、中国製品を除外する方針を固めたと報じられた。こちらに関しても各社は直接的な言及を避けているが、「政府の方針に準拠する」(ソフトバンク)などと方針を示している。また、今年の携帯電話事業参入を予定している楽天の三木谷浩史会長兼社長は、12月7日に中国メーカーの通信機器を「現在のところ使っていない」と述べている。

 これから莫大(ばくだい)なコストを掛けて全国に通信網を整備する新規参入事業者にとって、本来であれば低価格ながら高い性能を持つ中国メーカーの通信機器は非常に魅力的なはずだ。実際、日本でも比較的規模が小さい事業者を中心に、中国メーカーの通信機器を多く採用してきた時期がある。

 2007年の新規参入事業者であるイー・アクセスは、携帯電話サービスへ参入する際にファーウェイの通信機器を採用していた。また、2010年に経営破たんしたPHS(簡易型携帯電話)事業者のウィルコムも、「次世代PHS」の導入に向けてZTEと提携し、同社の通信機器の採用を進めていた。ちなみに、両社はいずれも現在のソフトバンクへと吸収されており、それがソフトバンクと中国メーカーとの関係が強まった要因の一つとなっている。

 にもかかわらず、楽天は新規参入にあたって中国メーカーではなく、フィンランドのノキア製の通信機器を採用している。そうした現状を見ても、中国メーカーが今、日本の携帯電話事業者に入り込みにくくなっていることをうかがい知ることができる。

 では、実際のところ、今のファーウェイ製品にセキュリティー上の何らかの問題が起きているのか、というと実はそうではない。
2018年12月、東京都内に掲示されているファーウェイのスマートフォンの看板(早坂洋祐撮影)
2018年12月、東京都内に掲示されているファーウェイのスマートフォンの看板(早坂洋祐撮影)
 携帯電話のセキュリティーに関する問題例の一つとして「バックドア」が挙げられる。これは、特定の人だけが通信できる「裏口」を、製品にあらかじめ組み込んでおくという仕組みだ。例えば、携帯電話のネットワークを構成している機器にバックドアが仕込まれていれば、バックドアを仕込んだ人物が通信内容を容易に傍受できてしまうため、セキュリティー上大きな問題となるわけだ。

 確かに、過去中国で製造されたスマートフォンのソフトウエアに、バックドアが仕込まれていたという事例が報告されていることから、懸念を抱く人もいるだろう。だが、これまで少なくとも日本国内においては、ファーウェイ製のスマホや通信機器からバックドアが見つかったという確固たる事例はない。ファーウェイ側も海外進出にあたっては、顧客からの信頼性を重視して、セキュリティーや安全性に関して相当の配慮をしていると、過去に筆者が取材した関係者も話している。