裏を返せば、そうした具体的なセキュリティーの問題が見つけられないからこそ、米国側はファーウェイの機器が広まることを阻止するため、政治的な手法に出ざるを得なかったとみることもできよう。では、なぜそこまで強固な姿勢を打ち出し、米国がファーウェイ製品の普及を阻止しようとしているのか。一言で表すならば、やはり「5G(第5世代移動通信方式)」ということになるだろう。

 なぜ5Gが重要かと言えば、携帯電話のネットワークが従来通りコミュニケーションを支える存在としてだけでなく、社会基盤を支えるネットワークインフラとして活用される可能性が高いからだ。

 5Gは通信速度がより高速になるだけでなく、ネットワーク遅延が非常に小さく通信による「ズレ」が発生しないこと、そして一つの基地局に多くのデバイス(機器)を同時に接続できることの三つが、大きな特徴となっている。それらの特長を生かすことで、遠隔医療や自動運転、さらにはIT技術を活用して街全体を効率化するスマートシティー(環境配慮型都市)の実現など、幅広い用途に5Gネットワークが用いられると考えられている。

 そうなると、携帯電話ネットワークのセキュリティーも大きく変わってくる。4Gまでのネットワークであれば、スマホの中に保存された情報や、通話やメールのやり取りが盗まれるなど、あくまで個々の利用者に対するセキュリティーにさえ配慮していればよかった。だが、5G時代に入り、社会を支える基盤にまで携帯電話のネットワークが入ってきたとなれば、そこに障害が起きたり、セキュリティー上の問題が発生したりした場合は社会全体に影響を及ぼすことになる。

 ファーウェイ事件が浮上したのと時を同じくして、ソフトバンクが約4時間にわたってネットワーク障害を発生させたことが、多くの人々の生活や企業活動に影響を与える問題となった。現在でも、これほどの大きな混乱が起きているのだから、「5G時代」になればネットワーク障害の引き起こす混乱の規模が、より大きくなることは想像に難くない。

 しかも中国は今、多くの企業が世界的に躍進していることもあって、携帯電話産業に非常に力を入れている状況だ。中でも、ファーウェイは通信機器メーカーとして首位を獲得しているし、スマホ販売でも、昨年米アップルを抜いて出荷台数シェア2位に躍り出るなど非常に勢いがある。

 一方で米国には、スマホの基本ソフト(OS)を司るアップルやグーグル、そして携帯電話向けのチップセットを開発しているクアルコムなどがあるものの、通信設備に関しては大きな存在感を発揮できていない。それだけに5Gによって携帯電話のネットワークがより大きな存在になろうとしている中、ネットワークインフラ面で強みを持たず、他国の企業に頼る必要がある米国は、強い危機感を抱くようになったのではないだろうか。

 ゆえに、今後も技術的に明確な根拠がないまま、ファーウェイに対する米国の不信感が続く可能性が高い。残念ながら、その影響が携帯電話市場全体に暗い影を落とす可能性は否定できないだろう。
2018年11月、中国浙江省で開催された世界インターネット大会で、AIやビッグデータを利用した都市管理システムについて説明を受ける来場者(左、共同)
2018年11月、中国浙江省で開催された世界インターネット大会で、AIやビッグデータを利用した都市管理システムについて説明を受ける来場者(左、共同)
 ファーウェイはスマホや通信機器を開発する上で、米国企業から多くの部品を調達しているし、ファーウェイ製スマホが採用しているOSも米国製のアンドロイドをベースにしたものだ。それゆえ、もし米国が、2018年4月にZTEに米国企業との取引禁止を命じた制裁を、ファーウェイにも科したとなれば大きな打撃を受けるのは必至だろう。

 だが、その打撃はそのまま部品やソフトウエアの販売が滞るなどして、米国経済にも大きな影響を与えることとなる。また、それに対して中国側が何らかの対抗措置を取った場合、米国企業の多くが中国で製造しているiPhoneなど多くのデバイス供給にも大きな影響が出る可能性がある。実質的に依存関係にある二つの大国が、対決姿勢を強めるほど市場全体が停滞するだけに、速やかに何らかの形で折り合いをつけてくれることを望みたいところである。