山田敏弘(国際ジャーナリスト)

 米国の対イラン制裁に違反したとしてカナダ司法省が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)兼副会長である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏を逮捕してから2カ月がたった。

 孟氏は昨年12月11日に1000万カナダ・ドル(約8億5000万円)の保釈金で釈放された後、現在もバンクーバーにある邸宅で、GPS(衛星利用測位システム)ブレスレットを足首につけた状態で監視下にある。自宅周辺に張り付いていたマスコミに孟氏がピザのデリバリーを振る舞い話題になったこともあった。

 米国は1月末までに孟氏の身柄引き渡し要請を行う方針を明らかにしており、対立する米中、カナダの間で緊張が高まっている。今回は事件の背景を振り返りつつ、今後のファーウェイなどが絡む米中の覇権争いがどこに向かうのか、探ってみたい。

 まず最初に、この件について知っておくべきことがある。今回騒がれた米中のサイバー空間における覇権争いは、今に始まった事ではないという事実だ。ファーウェイが米国などへ進出を始めた2000年代初頭から長年にわたって、同社と米国のせめぎ合いは続いてきた。今回、イラン制裁に絡む話が浮上したことで、米国がファーウェイを締め出す好機を得たということにすぎない。

 そもそも米国が見据えているのは、ファーウェイや中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)ではない。むろん、その背後にいる中国政府だ。

 米国に言わせれば、中国共産党と人民解放軍、民間企業は一蓮托生(いちれんたくしょう)である。軍のハッカーなどが世界から知的財産や機密情報を盗み、それを民間企業に漏洩するという流れがあるとの見方もある。

 米国家安全保障局(NSA)の元幹部、ジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に、グーグルの検索エンジン技術の「ソースコードが、中国に盗まれてしまっている」と語っている。また、米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだグーグルのソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジンである百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。

 つまり、こうした政府系ハッカーらによるサイバー攻撃が、中国系企業を下支えしてきたともみられている。いや、それだけではない。軍事機密も盗んでおり、戦闘機や潜水艦の設計図なども盗み出すことに成功しているのである。
モスクワでのフォーラムでプーチン大統領(左)と同席する華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)=2004年10月、ロイター=共同
モスクワでのフォーラムでプーチン大統領(左)と同席する華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)=2004年10月(ロイター=共同)
 中国ではもともと、民間企業であっても政府の命令には従う必要があった。米高官や外交官らが中国を訪問し、民間のホテルに泊まれば当たり前のように盗聴器が仕掛けられているという類いのエピソードは、何度も米政府機関関係者などから聞いたことがある。しかも中国は最近、それを明文化した法律も制定している。2017年に施行された「国家情報法」がそれであり、民間企業も個人もすべて政府が行う情報活動に協力しなければならない、という決まりを徹底している。

 こうしたことから、米国は長年ファーウェイなどが米企業などの知的財産を盗んでいると批判し、政府のために機密情報などをスパイする可能性を指摘してきた。そして最近になって、米国が本気で中国製品を排除しなければならない事情も浮上してきた。5G(第5世代移動通信システム)のインフラ機器やスマホの分野における中国企業の台頭である。