配偶子提供制度が未確立の日本では、多くの場合、夫婦間で不妊治療を繰り返している。体外受精を受けて出産に至った女性の割合はわずか11・7%だった(2015年)。その主な理由として染色体異常などを特徴とする卵子老化が指摘されるが、遺伝子変異による不妊もありそうだ。

 賀副教授はサミットに先立つ11月25日、YouTubeで双子誕生を世にアピールし始めた。翌26日、私はその動画を見たというある男性からEメールで相談を受けた。彼の妻はTUBB8遺伝子の変異が原因で体外受精を3回受けても胚が育たないため、夫婦でゲノム編集を伴う生殖医療研究に参加したいがどう思うか、という内容であった。難治不妊を克服するためのゲノム編集の臨床利用、これは日本に現在存在する切実な生殖ニーズを満たすかもしれない。

 しかし、この生殖イノベーションに進む前に、合わせて検討すべきアジェンダ(課題)がある。それは生殖医療と「両親と子の遺伝的つながり」のバランスの問題だ。第三者からの配偶子の提供を受ければ、難治不妊は解消できるが、片方の親と子で遺伝的つながりがない。しかし、特別養子縁組制度があることを考えると遺伝的つながりがない親子に問題があるとは言えまい。

 一方、配偶子提供自体、問題が多い。

 目下、法務省で親子関係を明確にすべく検討が進んでいるが、配偶子提供者の個人情報保護、ヒト配偶子の道具化、女性から数限られた卵子の搾取、子の出自を知る権利などの問題は残置されたままだ。欧州などの国々では配偶子提供の法制度を既に整えているが、日本は本件について完全解決をみないままゲノム編集を伴う生殖医療に進むべきだろうか。

 私たちは誰一人として自ら同意して誕生していない。私たちの誕生は全て親たちが決めたのだ。ゆえに夫婦で同意書にサインすれば生殖医療を受けることができる。

 では、急速に技術進展し、リスクが低減しつつあるゲノム編集を生殖医療として使う場合、どのような目的なら夫婦の同意で実施が許容されるのだろうか。その利用目的は現在の日本社会の道徳観にかない、また切実なものだろうか。

 そもそも、このような受精卵の遺伝子を操作する生殖医療を解禁した場合、生まれる子の健康や福祉を損なうリスクは低いと言えるのか。一人でも先天異常の子が生まれたら、どうすればいいのか。一方、配偶子提供制度の確立に本腰を入れなくていいのか。メディアのヘッドラインで思考停止に陥らず、深く考えたいものである。

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