富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授)

 さすがは中国、そんなことまでやっちゃうのか! 第一報に接した日本の読者のほとんどは、そんな感想を抱いたに違いない。

 2018年11月26日、世界を駆け巡った「エイズウイルス(HIV)の免疫を持つ双子誕生」のニュースは衝撃だった。中国の研究者で、南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授は、生物の細胞が持つ全遺伝情報(ゲノム)の中で、狙った遺伝子を自由自在に改変する「ゲノム編集」技術を使うことで父親のHIVが細胞に入らないようにした双子の女児、ルルとナナを誕生させたと発表した。

 ゲノム編集を人間に施すことは、技術的には可能であっても、安全性に加えて倫理の点からも課題は多く、「越えてはならない一線」と広く認識されてきた。その倫理の壁をやすやすと飛び越えてしまった中国の研究者に対して、世界から非難が集中した。

 早い段階で、当事者である賀氏にインタビューし、記事を配信したAP通信は、各国の主要な研究者がそろって否定的な見解を示したことを紹介した。日本の反応も同様で、12月4日には「日本ゲノム編集学会」が「倫理規範上も大きな問題で国際的な指針にも違反した行為に強い懸念を表明する」という声明を出した。

 こうした反応は、むしろ織り込み済みだったようにも思えるのだが、興味深かったのは、発表当初から中国のメディアまでが否定的なニュアンスで扱ったことだ。

 AP通信の記事を受けた『環球時報』などは「中国人による驚愕(きょうがく)の実験に 外国メディアもショック!」(ウェブ版、11月26日付)の記事の中で、世界各国からさまざまな問題が指摘されていることを紹介した。それだけでなく、わざわざ広東省衛生健康委員会と深圳(しんせん)市医学倫理専門家委員会が、それぞれ組織を挙げてこの問題を調査し、後日その結果を公表すると宣した公告を載せたのである。中央政府が賀氏に対する調査を省政府に指示したとされる。
中国深圳にある南方科技大=2018年11月(共同)
中国深圳にある南方科技大=2018年11月(共同)
 賀氏の所属する南方科技大も「(研究は)大学外で報告なく行われたことで、倫理と学問的規範に違反している」との声明を発表。中国を代表する科学者122人も連名で賀氏を批判した。