『環球時報』は、いわゆる「左派系」(日本でいう「右派」)に分類されるメディアで、外国に対する厳しい論調が持ち味の国際情報紙だ。もし、賀氏の研究が誇るべき成果であれば、外国の反応や他の国内メディアの反応がどうであれ、その功績を称揚する論陣を張ったはずだ。賀氏の研究成果は、まさに四面楚歌(そか)という展開になったのである。

 あるメディア関係者は「こうした場合、次に考えられるのは賀氏が公表した研究が虚偽であったと発表されることや、何らかのトラブルで彼が逮捕される展開です」と話す。

 ニュースが拡散した直後には「実際に誕生した嬰児(えいじ)が公開されていない」といった批判も多く、どの研究者も「もし本当なら…」という断りを入れていたことが印象的であった。また、騒動から約1週間後に報じた香港紙は、賀氏が大学当局から軟禁されているというショッキングな記事を掲載した。世界から脚光を浴びた賀氏の周りに、暗雲が立ち込めるようであった。

 本来であれば、中国でお決まりの「消息不明」から「逮捕」という流れに向かっていくことになる。だが、発覚当初、当局はそのつもりではなかったらしい。

 「実は、今回の騒動で戸惑っているのは当局の方だったのです。研究者や専門機関からの反応は確かにネガティブなものが目立つのですが、国民の賀氏への支持は極めて高いのです。海外の反応は気にしつつも、何が何でも彼を処分するといった雰囲気ではありませんでした」

 困惑ぶりをこう振り返った党機関紙の記者がさらに続ける。「そもそも賀氏は、この騒動が起きる前から有名な研究者です。米国でも実績を残したことから、中国の未来を担う一人と目されています。特に中国が国として力を入れていこうとしている最先端の分野を担い、同時に会社も8社ほど立ち上げている『若者のカリスマ』ですから。最初から、彼に対して『潰し』ありきの選択はできなかったのでしょう」

 AP通信のインタビューの中で、賀氏は「私の責任は重大だと感じている。単に、初めてのケースというだけでなく、彼女を一つの成功例としていかなければならい」と語り、「もし予想外の副作用が出た場合は、その痛みを共有して全責任を負う」と語っていた。折しも、同じ11月末に中国のエイズ感染者が85万人に達したと報じられたのは、何かの因縁だろうか。
2018年11月、香港で開かれた国際会議で講演する中国・南方科技大の賀建奎副教授(共同)
2018年11月、香港で開かれた国際会議で講演する中国・南方科技大の賀建奎副教授(共同)
 2019年に入って、広東省当局の調査結果が公表され、双子誕生のみならず、別の女性1人も妊娠中であることを確認した。賀氏の行為も「自らの名誉と利益のため」と断罪され、立件に向けて公安機関に送致されると、国営新華社通信が報じた。当局の認定により、お決まりの方向に進むことは避けられなくなったのである。