杉江義浩(放送プロデューサー、ジャーナリスト)

 テニスの大坂なおみが、1月26日に全豪オープン決勝でペトラ・クビトバを制して優勝し、男女通じてアジア人初の世界ランキング1位になりました。これはスポーツ界のみならず、明るいニュースに乏しい昨今、まれに見る歴史的な快挙と言えるでしょう。試合そのものも素晴らしい内容だったし、抜きん出た実力に似合わないシャイな性格は、そのキャラクターでも世界を魅了しました。

 私が完全に大坂のファンになったのは、昨年夏の全米オープンで彼女が初優勝したときです。力強いショットを生み出す恵まれた体格は、北海道出身の母親と、ハイチ出身の父親のミックス、それに米国の育成環境が融合して生まれたのだという解説を聞いて以来、私はずっと彼女に注目してきました。

 今回の全豪オープンで大坂を応援していたのは、もちろん私たち日本人だけではありません。彼女の父親の出身地ハイチでも、地元のテレビ局が彼女の全試合を生中継し、国を挙げての熱狂ぶりでした。

 日本のテレビ局よりも、ハイチのテレビ局の方が、より熱く彼女を見守っていたようです。彼女がハイチの国籍を持っていないにもかかわらず、ハイチのマスメディアは彼女に非常に好意的でした。

 日本のメディアは、ハイチのそれに比べると、彼女の戦績を後追いしている感が否めません。とりわけネット上で交わされた日本の議論は、彼女の偉業とはほど遠い、ガッカリするような内容でした。

 毎日新聞客員編集委員で帝京大教授の潮田道夫氏が「大坂なおみの国籍選択の期限が来る。五輪もあるし、多分米国籍を選択すると思うが、そのときの日本人の失望はすごいだろうな。政権が倒れるぞ、下手すると。マスコミも困るだろうな。どうする諸君」とツイートしたところ、それに反応した作家の百田尚樹氏が「ふーん、毎日新聞の編集委員というのは、こういう考え方をするのか。クソみないな人間やね!」とツイートし、このやりとりが炎上しました。

 いい年をした大の大人が、他人を指して「クソみたいな人間」と人格否定する発言には驚きましたし、「毎日新聞の編集委員というのは」とひとくくりにする浅薄な言論には、ベストセラー作家としての知性のかけらも感じられません。まるで子供のネット掲示板レベルのやりとりです。ネット上の議論というのはここまで落ちぶれたのでしょうか。

 一方で引用された潮田氏のツイートも、ジャーナリストとは思えない、とんでもない論理の飛躍です。「大坂なおみが米国籍を選択する」すなわち「政権が倒れる」とは、いったいテニスと日本の政権にどういう因果関係があるのか、首をかしげるばかりです。
大坂の優勝を報じるオーストラリアの地元紙(共同)
大坂の優勝を報じるオーストラリアの地元紙(共同)
 百歩譲って潮田氏のツイートを「風が吹けば桶屋が儲かる」式に解釈してみるとするなら、「日本とアメリカの二重国籍である大坂が、米国籍を選択して日本人選手じゃなくなると、多くの日本人はガッカリするだろう」ということが言いたかったのだと理解することはできます。

 大坂は2020年の東京オリンピック強化指定選手に認定されていますから、日本オリンピック委員会としては、彼女にはぜひとも日本人でいてもらわないと困るのでしょう。